戦争が終わってウクレレと出会い、ステージに立った

 戦争が終わったことを知っても、ホッとしたとか「これで新しい世の中になる」とか思ったわけじゃない。「ああ、終わったのか」ぐらいだった。小さい頃の夢は、陸軍に入って飛行機乗りになることだったんだけど、空襲で家が焼けてからそんなことはどうでもよくなってた。今思えば、抜け殻みたいになっていたのかな。

 僕は難しいことはよくわからない。でも、戦争は絶対にやってはいけないってことは、確信を持って言える。戦争はすべてを奪ってしまう。人間を変えてしまう。原因がどうだとか、どこの国が悪いとかは関係ない。とにかくやっちゃダメなんだ。

高校時代の高木ブーさん。高一の夏に地元の夏祭りのステージに立ったことをきっかけに、ウクレレに夢中になった(写真提供/高木ブー)

高校時代の高木ブーさん。高一の夏に地元の夏祭りのステージに立ったことをきっかけに、ウクレレに夢中になった(写真提供/高木ブー)

 戦争が終わって何年かたった頃、僕はウクレレに出会った。僕の15歳の誕生日に、8歳上の兄貴が気まぐれでプレゼントしてくれたんだよね。その年の柏の夏祭りで、知り合いに誘われて何人かでハワイアンを演奏した。それが僕のステージデビューだ。コードなんてロクに知らなかったけど、あのときお客さんが身体を揺らして楽しそうに聞いてくれた快感が病みつきになって、ウクレレは僕の生涯の相棒になった。

 たまに「自宅を燃やしたアメリカの音楽を演奏することに抵抗はなかったですか」と聞かれることがある。僕がボーッとしてるからかもしれないけど、ヘンだとか矛盾してるとか思ったことはない。それだけウクレレやハワイアンが魅力的だったこともあるけど、憎いのは戦争であってアメリカじゃない。まして音楽には何の罪もない。「どこの国の音楽だから」なんてことにこだわるのは、音楽に失礼だと僕は思う。

コントも音楽も平和な世の中だから楽しんでもらえる

 高校時代からはウクレレ一色の日々を過ごして、大学を出てすぐプロのミュージシャンになった。いくつかのバンドを結成したり移籍したりして、長さん(いかりや長介)にザ・ドリフターズに誘われたのは、59年前の夏だった。ハナ肇さんに「高木ブー」っていう名前を付けてもらったのは、年が明けてすぐぐらいだったかな。

 ドリフの一員として毎日忙しく過ごして、おかげさまで今でも多くの人がドリフのコントを楽しんでくれている。90歳になった今も、ステージの上でウクレレを弾いて歌うことができている。いい仲間といい家族にも囲まれて、僕は本当に幸せものだと思う。

ラスベガスに立つドリフターズ(写真提供/高木ブー)

ラスベガスに立つドリフターズ(写真提供/高木ブー)

 コントに全精力を傾けて見たひとに笑ってもらえるのも、音楽を長く仕事にできているのも、ハワイでウクレレのフェスに参加していろんな国のミュージシャンと仲良くしたりできるのも、平和な世の中だからだよね。世界中のすべての国が平和な状態じゃないのはとても残念だけど、いつか地球全部が平和になる日が来ると信じてます。

 コントや音楽を楽しんでもらうことを通じて、すごく間接的かもしれなけど、平和の大切さや平和の素晴らしさを伝えられたら、僕としてはとても嬉しい。何か腹が立つことがあって、個人的な平和が乱されそうなときも、僕たちのコントや音楽で気持ちをしずめてもらえたらいいな。そうそう、ゆで卵を食べるのもおススメです。

【プロフィール】
高木ブー(たかぎ・ぶー)/1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。近年は、サザンオールスターズの関口和之や荻野目洋子、野村義男らとともに「1933ウクレレオールスターズ」としても活動。最新刊『アロハ 90歳の僕 ゆっくり、のんびり生きましょう』(小学館、2,200円+税)には、高木ブー的な生き方の秘密やザ・ドリフターズの歴史が多くの秘蔵写真とともに凝縮されている。加藤茶、高城れに、大槻ケンヂらゆかりの8人が語る「ブーさんと私」も必読。画集第二弾『高木ブー画集RETURNS ドリフターズよ永遠に』(ワニ・プラス、2,700円+税)も大好評! イザワオフィス公式YouTube新企画「ドリフ麻雀」は、毎週土曜日午前9時に新たな動画を公開。

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