温熱や精神的緊張がないのに、両方の掌に過剰な汗をかくのが原発性手掌多汗症だ。幼児から思春期に発症することが多く、発症原因は不明である。多汗だと日常生活の質が落ち、学習や労働効率が低下する要因となる。今年、原発性手掌多汗症の外用薬が保険承認された。頻尿経口薬の成分を外用に転用したもので、局所限定のため、副作用が比較的少ないまま制汗が可能だ。
発汗には体温上昇を調節する温熱性発汗と、緊張などによる精神性発汗がある。原発性手掌多汗症は精神性発汗に分類され、緊張時はもちろん、本人が緊張していない時にも日常生活に支障がでるほど多くの発汗がある疾病だ。
難病情報センターの研究プロジェクト、特発性局所多汗症の疫学調査(平成21年度)によると、原発性手掌多汗症有病率は人口の5.3%だが、医療機関受診は10%以下と少ない。平均発症年齢は13.8歳で、ボリュームゾーンは10~50歳代となる。
池袋西口ふくろう皮膚科クリニック(東京都豊島区)の藤本智子院長に聞いた。
「3歳から80代までの患者さんが多汗症を訴え来院されます。例えば80代の患者さんは施設入居に際し、介護職の人たちに自分の汗で不快な思いをさせるのは申し訳ないという理由で受診されています。この病気は、ご自身が困らなければ治療の必要はありません。しかしながら“ジャバジャバ”といった表現が大袈裟ではないくらい発汗する方もおられます。そのせいで対人関係や付き合いが狭まり、結果的に苦手になったり、学業や仕事の効率が低下してしまうことが問題なのです」
原発性手掌多汗症の発症原因はいまだ解明されておらず、それでも緊張で発汗するため、自律神経(交感神経)が何らかの関与をしているのではないかと考えられている。
治療は対症療法がメインだ。診療ガイドラインでは塩化アルミニウムを塗り、汗腺に蓋をして発汗を防ぐ薬物療法と、通電で汗孔数を減少させるイオントフォレーシスが第一選択として推奨されている。しかし、塩化アルミニウムは保険承認されている外用薬がなく、そのつど院内で調合する必要がある。イオントフォレーシスは専用の治療機器がある医療機関でしか受診できない。