「休みが必要なら、休むことも仕事として大事になるかと思います」──8月9日(日本時間10日)の試合で、大リーグ史上初となる2年連続での「2桁勝利&2桁ホームラン」を達成した、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平(29才)。シーズンもいよいよ佳境に差しかかる中、大谷が発したこの“言葉”を巡り、周囲が騒がしくなったという。
「日本よりも圧倒的に試合数の多いメジャーでは、定期的に選手が休養日を取るのが主流。しかし、これまでの大谷選手は多少疲労感があっても、試合出場を優先する“出たがり”として知られていた。ところが、9日の取材では、自ら休養日に言及したのです。この大谷選手の“変化”に驚いた関係者は少なくありませんでした」(スポーツ紙記者)
変化はなぜ起きたのか。大谷は7月27日の試合で、ホームランを打った直後に顔をしかめながら脇腹を押さえる仕種を見せ途中交代。原因は水分不足による痙攣と報じられたが、その後の試合でもふくらはぎや右手中指に次々と痙攣を起こしてしまう。疲労のたまる夏場に相次いだ痙攣の症状に、大谷の体調を懸念する声が高まった。前出のスポーツ紙記者が語る。
「いまのエンゼルスはけが人が続出していて、野戦病院と揶揄されるチーム状況です。そんな中で連続した痙攣の症状は、大谷選手にとってもチームにとってもまさに重大なピンチ。当然、体調を心配する声は彼の耳にも届いていたのでしょう。そこで、“この状況で、自分が離脱するわけにはいかない”と、考えを切り替えた。それが休養発言につながったのではないか」
この頃、アメリカのスポーツ番組に出演したエンゼルスの前監督、ジョー・マドン氏もこう明かしている。
「去年、彼の状態を見て私から休養を命じたことが2回あった。疲れがたまっているように見えたからね。ショーヘイの場合、綿密に計画したプランを提示すれば受け入れてくれる」
実際に13日、大谷は自ら次の登板を回避することを直訴し、今後のパフォーマンスをより上げるための「積極的休養」を選択した。この「聞く力」こそが、過去の偉大な選手たちとも一線を画す、彼の特別な能力だという。
恩師・栗山元監督からの言葉
これまでプロ野球の世界で成功を収めてきた選手には、確固たる「おのれ」があり、むしろ他人の意見を「聞かない力」を持っているタイプが多かった。例えば、日米両リーグでシーズン最多安打記録を塗り替えたイチロー(49才)は、独自の“振り子打法”で有名だ。
「入団当初、打撃コーチに何度も『バッティングフォームを変えろ』と言われましたが、彼は一軍に上げてもらえなくても、従いませんでした」(野球ライター)
日米通算201勝、日本人メジャーリーガーのパイオニアでもある野茂英雄(54才)も、打者に背中を向けるほど大きく腰をひねる、独特の“トルネード投法”で名を馳せた。
「日本での現役時代、野茂さんは契約条項に“フォーム変更の忌避”を加えたほど、頑なに自分の投球フォームにこだわりを持っていました」(前出・野球ライター)
だが、最近では、大谷のように「聞く力」のある選手の方が成長すると考える指導者が増えているという。昨年、夏の甲子園を制した仙台育英高校の須江航監督(40才)も、その1人だ。
《中学生の年代で考えるのであれば、一番身に付けてほしい力は「傾聴力」です。単なる「素直さ」という意味ではなく、人の話をしっかりと受け入れて、理解し、吸収できるか。それは、大人の話だけでなく、(中略)自分の行いを振り返るために、人の話を受け入れられるかどうか。それは、本やテレビからの学びでも構いません》(『新時代の中学野球部 勝利と育成の両立を目指す名将の指導論 』)
実際に大谷はかなりの読書家で知られる。
「京セラ創業者・稲盛和夫の『成功への情熱』、渋沢栄一の『論語と算盤』など、一見、野球とは関係ないビジネス書までも読み漁っています。これは北海道日本ハムファイターズ時代の恩師である栗山英樹元監督(62才)に『野球以外からも幅広く知見を取り入れることの重要性』を説かれたことが影響しているそうです」(前出・スポーツ紙記者)
指導者の声だけでなく、読書によってジャンルの違う偉人たちの言葉に耳を傾ける姿勢もまた、いまの大谷を形作る要因だ。