お願いしておいてビデオ通話は失礼
一方で、大谷の「聞く力」は決して受け身ではなく、自分から聞きに行く姿勢も見せる。メジャー初年度の2018年、オープン戦で結果を残せなかった大谷は、当時まだ現役だったイチローに連絡し教えを乞うた。
「イチローさんは『ビデオ通話で話そうか』と提案したそうですが、大谷選手は『お願いしておいて、ビデオ通話は失礼。自分で行くべき』と思い、バット1本持って、イチローさんの家を訪ねたそうです。そこで、技術的なことや心構えなどの指導を受けたことが、大谷選手が大きく変わるきっかけになった。
イチローさんからもらった『自分がこれまでやってきたことをもっと信じた方がいい』というアドバイスは、いまも大切にしています」(前出・スポーツ紙記者)
周囲のアドバイスに耳を傾けつつ、それをしっかりと理解し、自分が取り入れるべきものは取り入れる。大谷はその姿勢を貫いてきた。ここ数年、大谷がオフなどに足繁く通うのは、アメリカ・シアトルの「ドライブライン」という最先端のトレーニング施設だ。
「大谷選手はこの施設で、さまざまなデータに基づいた指導を受けています。試合前のルーティンにすっかり定着した100gから2kgまでの重さの違うカラフルなボールを投げる練習も、けがの防止と球速アップのためにドライブラインで考案されたものです。大谷選手にとっても印象深かったようで、『あそこには貴重な意見とデータがあり、貴重な指導が受けられた。得られたものは大きかった』と語っています」(スポーツジャーナリスト)
阿川佐和子さんの大ベストセラー『聞く力』には、「相手の目を見て会話すること」の重要性や「会話のきっかけになる質問を見つけること」など、コミュニケーションの極意が紹介されているが、こうしたスキルの中には、大谷が自然と実践しているものもあるという。
「外国人記者に話を聞くと『ショーヘイは通訳がいるのに、記者の目を見て聞き、話すよね』と大谷選手の特徴を挙げる人が多い。
また、先日のWBCでは、初対面の選手に『何才?』と積極的に話しかけて交流を図っていました。相手の答えやすい質問をきっかけに、自分からコミュニケーションをとって、相手の言葉に耳を傾ける。だから彼はチームメートはもちろん、ほかの球団の選手からも愛されているのでしょう」(前出・スポーツジャーナリスト)
類いまれなる「聞く力」でピンチを乗り切る大谷が、どんな成績を収めるのか。楽しみは尽きない。
※女性セブン2023年8月31日号