しかし、「総量が問題」なら、自然界では毎年7京ベクレルものトリチウムが生成されていて海に降り注ぎ、海水中に約40億トンのウランが溶けている事実をどう捉えるのか。海で泳いでも、釣った魚を食べても放射線被ばくによる健康被害が起きないのは、それら放射性物質の濃度が薄いからである。
世界中の原発から海洋放出されている
【Q4】核燃料に触れた“汚染水”を放出するのは日本(福島第一原発)だけだ。
【A4】世界中の原発関連施設で放出されている。
福島第一原発の処理水に含まれるトリチウムは、年間22兆ベクレルと想定されているが、日本政府が作成した資料によると、中国・浙江省の秦山第三原発は約143兆ベクレル(2020年)、広東省の陽江原発は約112兆ベクレル(2021年)、福建省の寧徳原発は約102兆ベクレル(同)と、それぞれ年間排出量が100兆ベクレルを超えている。こうした事実を前にしても、「福島第一の処理水は核燃料に触れた水だからダメで、そんな“汚染水”を排出するのは日本だけ」だと主張する人もいる。
しかし、使用済み核燃料の再処理工場から出る排水も、核燃料に触れた水だ。
「フランスのラ・アーグ再処理施設では年間1京ベクレル(2021年)、イギリスのセラフィールド再処理施設では186兆ベクレル(2020年)ものトリチウム水が排出されています」
【Q5】処理水が安全というなら、なぜ貯め続けていたのか?
【A5】最適な処理法を議論する時間が必要だったから。
貯め続けた理由には2つあるという。
「最適な処理方法を決めるための議論が必要だったからです。その後も貯め続けたのは、人々の不安を解消する必要があったから。しかし、タンクの置き場がなくなりつつあり、また古いタンクの安全性も懸念されることから、放出せざるをえない時期になった」
技術的な問題ではなく、政治的な問題になってしまったことも大きいと言える。