進行を遅らせるキーワードは、本人の「生きがい」
いまのところ、アルツハイマー病など認知症の原因になる病気を根治させる治療法はない。しかし、大変効果的と言われているのが、ずばり本人にとっての「生きがいある生活」だ。
「外出」や「運動」だけでなく、「園芸」「読書」「楽器演奏」「川柳」などの趣味は脳に刺激を与えくれる。近頃、話題の「健康麻雀」もまさに認知症にいいと高齢者に人気だ。また「化粧」や「ファッション」「料理」「買い物」など日常生活を気ままに楽しんだり、笑ったり泣いたりする生活も重要という。家族や周囲の人に何かをしてもらうのではなく、認知症の本人自身が好奇心をもってワクワクすることが大切なのだ。
この「生きがい」という分野の認知症研究も進んでおり、米国・ラッシュ大学の研究チームが高齢者を対象に行った調査(※)では「人生の目的(生きがい)を持っている人は、アルツハイマー型認知症で脳の病理的変化が進んでも認知機能の低下が起こりにくい」という結果も。つまり生きがいをもって前向きに暮らすと、病気が進行しても生活する能力が保たれるということだ。
脳はいろいろな神経が連携して働いているので、一部の機能が低下しても、ほかが補って機能を果たそうとする。認知症になって脳の一部が障害されても、「まだ障害されていない部分、障害され始めていても程度が軽い部分の脳は、使っていくことで能力は上がる」と前出・繁田雅弘医師は解説する。脳活性のためのトレーニングもあるが、“普通の生活”を主体的に楽しむだけで脳はフル稼働するという。
本人がやりたいことをして、存分に人生を楽しめるよう寄り添う。これが進行速度をゆるめ、認知症でも心を平らかにして生涯を過ごす知恵。そこに手を貸すのが、家族の役割かもしれない。
※「アルツハイマー病の病的変化と高齢期の認知機能との関係に及ぼす“人生の目的”の影響」(アーチジェン精神医学2012.69(5))
◆取材・文:斉藤直子
参考/『151人の名医・介護プロが教える認知症大全』 監修:繁田雅弘(認知症専門医)、服部万里子(主任ケアマネジャー)、鈴木みずえ(老年看護学教授)