2025年には高齢者の5人に1人が患うといわれる認知症。同居であれ遠距離であれ、介護する家族の生活にも大きく関わるシビアな問題でもある。ひと昔前は、不可解な行動や症状に「何もわからなくなっている人」と捉えられ、「痴呆」とも呼ばれていた。しかしいまは世界中で研究が進み、進行スピードは30年前の3分の1ほどにまでなり、認知症観は大きく変わりつつある。
東京慈恵会医科大学教授で日本認知症ケア学会理事長の繁田雅弘医師は、監修を務める『151人の名医・介護プロが教える 認知症大全』(小学館)の中で、「進行ステージの『軽度』・『中等度』くらいまでを維持したまま、天寿をまっとうする人が増えている」と語る。
「軽度」・「中等度」とは、少しの支援や介助で普通に生活できるステージこのと。この「普通に生活できる」ステージを維持するためには、身近な家族が認知症をよく理解し、本人目線で対応することが重要なポイントだという。同書より、実際に介護現場に携わったプロから聞いた最新の認知症情報を紹介する。
認知症の人の行動を正そうとするのは逆効果。より症状が悪化しやすくなる
「話したことを忘れて同じ話を繰り返す」
「今日が何曜日かわからなくなる」
「得意だった料理ができなくなる」
これらは認知症でよく見られる症状。これに対し、身近にいる人は、「違う!どうしちゃったの」「さっき、金曜日と言ったでしょ!」などと厳しく指摘したり正そうとしたりしていないだろうか。
多くの認知症は、基本的に進行はゆっくり。脳の機能低下でできないことや生活上の失敗は出てくるが、すぐに何もかもできなくなるわけではない。しかし発症以前をよく知る家族には小さな変化がすべて異常な行動に映り、家族だからこその切ない思いも募る。つい責めてしまうのだが、身近な人のそんな対応が本人を不安にさせ、症状悪化を招き、“より大変な認知症介護”につながることを、まず知っておきたい。
実は少なからず本人も自分の異変に気づくという。平静を装っていても内心は、自信を失い、この先どうなるか大きな不安に苛まれているのだ。さらに困りごとやつらい気持ちをうまく言葉で説明できなくなるのも認知症の症状の一つ。そのもどかしさや、身近な人に理解されない悲しみが大きなストレスになり、「妄想」や「介護拒否」、「暴言」、「徘徊」といった周囲を困らせる症状になって現れたりもする。