天皇ご一家や秋篠宮ご一家など天皇・皇族方の身辺を守る“皇室版SP”。社会部記者として長年皇室取材を担当してきた産経新聞の大島真生氏が、その知られざる任務について、歴史的背景や最新事情とともに解説する。
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「9月下旬にベトナムを訪問される秋篠宮ご夫妻にはもちろん経験豊富な『側衛官』が側につきます。現地大使館とも緊密に連携しながら身辺警備に万全を尽くす方針です」──警察関係者はこう語る。
側衛官とは皇宮警察(皇警)本部護衛部に所属する皇宮護衛官のこと。一般の警察官でいうSP的存在で、言うなれば皇室版SP。SPは大臣など政府の要人らを“警護”する私服警察官で「一般的には警護と呼びますが、皇室については警察内部で“警衛”と言います」(前出の警察関係者)。
ただ、仕事の中身はほぼ同じ。「警衛を担う皇警で身辺警備専門なのが側衛官で、側衛官は日本の警察権が及ばない外国にも天皇・皇族方に同行します。その点でも首相の外遊に密着するSPと同じ。皇室限定なだけです」(同)。もはや単なる筆頭宮家当主でなく皇位継承順位第1位の皇嗣となられた秋篠宮さまの外遊には、皇太子級の手厚い警備体制が敷かれるというわけである。
護衛部には天皇ご一家と、天皇陛下が迎えられる国賓を守る護衛第1課、秋篠宮ご一家を中心に宮家が守備範囲の第2課、上皇護衛課の3つがある。実は側衛官にもランクがあり「各課長の下にそれぞれ側衛官の現場指揮役の『侍衛官』がいます。その下には侍衛官への登竜門的な『上席側衛官』が控えています」と元皇警幹部は語る。
スキー、乗馬、水泳まで
側衛官は皇室の方々が出かける全ての場所で護衛に当たり、古代からある「内舎人」という呼称の雑役ら宮内庁職員も兼務する。天皇・皇族方のプライベートにも密着するため水泳や乗馬、スキーといったご趣味に付き合える技能も日々磨いている。
「『ヒゲの殿下』として親しまれた故寛仁さまのエピソードが、皇警では語り継がれています。寛仁さまは札幌冬季五輪の組織委に関わるなどスキーがお好きだったことで有名です。遺志を継がれた長女の彬子さまは日本プロスキー教師協会総裁。寛仁さまはよくゲレンデに滑りに行かれたため、側衛官もスキーのスキルが“必修課題”でした」(前出の元皇警幹部)
こうした点もSPとよく似ている。谷垣禎一元財務相は自民党幹事長時代の2016年に自転車事故で瀕死の重傷を負ったが、乗っていた自転車はロードバイク。サイクリングウエアに本格的なヘルメット姿で毎日のように趣味で疾走していて、事故に遭った。
「SPも谷垣さんについていくのが大変で、サイクリングの鍛錬には余念がなかったそうです。故・石原慎太郎氏は都知事時代、たびたび海に泳ぎに行ってスキューバダイビングを楽しんでおり、SPには相当な水泳の技量が求められ、気に入られたSPが自主的にスキューバの練習をしていたと言われています」と警視庁OBは回想する。