シングルマザーに代表される「ひとり親家庭」の貧困
「女性の貧困」「子どもの貧困」「ひとり親家庭の貧困」などとその都度メディアでもいろいろな名称で報道されている。政府の調査でも、「ひとり親家庭」(母親もしくは父親1人と、その子からなる家庭)の場合は、半数以上が貧困状態にあるというデータがある。そのほかの家庭では貧困状態にあるのは6人に1人から7人に1人とされているので、非常に高い数字だ。
筆者が2008年前後数年間のリーマン・ショックの時期と2020〜2021年の時期のコロナショック期の「女性の貧困」「子どもの貧困」「ひとり親家庭」に関するテレビ報道のデータを分析したところ、リーマン期は2009年に報道(放送時間)のピークになっているが、2020年、2021年にはそれをはるかに上回る時間が放送されている。(参考:『メディアは「貧困」をどう伝えたか』水島宏明著/2023年・同時代社の82ページあたり)
コロナ禍では生活に困窮する「ひとり親家庭」が急増した。そして今や物価高が直撃している。そんな背景で生活苦の末に借金をしてしまうシングルマザーも少なくない。そんな社会のリアルを見事に映し出した回だった。ドラマで、シングルマザーが執行官の小原(織田裕二)に指輪を差し押さえ物件として差し出す場面に戻ってみよう。
(シングルマザー)「これもお願いします。もう逃げません。親や兄弟に相談してどうにか残りも返せるようにします」
(小原)「役所のほうにも相談してみてください。社会福祉協議会の審査に通れば無担保、連帯保証人なしで低金利の借り入れができる可能性があります」
社会福祉協議会の貸付金は生活に困窮した人のためのいざという時のセーフティネットの一つである。ただし、条件や支払いのタイミングなどで制限があるために必ずしも必要な時にすぐに使える制度ではない。小原が言った「役所」というのは地方自治体の生活保護の窓口のことだが、こちらも困った時に必ずしもすぐに使える制度になっていないことは、福祉の専門家などから指摘されていることである。
だが執行官である小原の役割としてはそう告げることが精一杯だったはずだ。この建前のような言葉を聞いて、シングルマザーが怒ったように小原に詰め寄る。
(シングルマザー)「執行官さんも公務員ですよね? 教えてほしいんですけど、税金って何に使っているんですか? なんで家事に還元されないの? 家族のためにきちんと働いている人のところにどうして少しも戻ってこないの? なんで普通に幸せになれないの? どうして…?」(「ママ、なんで泣いているの?…」と子どもの声)
OECD諸国の中でも群を抜いて「ひとり親家庭」の貧困率が高い日本(OECDの最新データでは48.3%。36か国中ワースト2位)。税金や手当などでシングルマザーに還元される「所得の再配分」が極端に低いことを専門家も指摘している。そのことを当事者の言葉としてセリフにした名脚本家・大森美香さんの見事な脚本だった。