子どもの貧困、学生の貧困、ひとり親家庭の貧困──本来、社会的に庇護される立場であるはずの人々が陥っているとされる現代の「貧困」は、どのような実態を伴っているのか。近著『メディアは「貧困」をどう伝えたか』で現代の貧困報道のありようをつぶさに検証したジャーナリスト・水島宏明氏(上智大学文学部新聞学科教授)は、今夏テレビ朝日系列で放送された伊藤沙莉主演の連続ドラマ『シッコウ!!〜犬と私と執行官〜』のなかで、そうした「見えにくい貧困」が巧みに描写されていたと評する。水島氏が解説する。(以下、作品内容に関する記述を含みますので、未見の方はご注意ください)
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コロナ禍以降、急激な物価高のために生活に困窮する人たちがじわじわ増えているのを感じる。学生たちとボランティアでたまに行く食料配付の支援の現場では行列の長さが日を追って長くなっている。それだけ今、日本社会では生活に苦しむ人たちが増えていて、「貧困」がますます広がっているという実感をもつ。
筆者は現在、大学教員として若者たちにジャーナリズム、なかでも「テレビ報道」について教えている立場だ。かつてはテレビ局で「貧困」についての報道に関わっていたため、現在も「貧困」の報道が専門分野になっている。テレビ局勤務時代はニュースやドキュメンタリーの取材や制作にかかわっていたのでドラマは専門外だが、最近、ドラマの中でとても気になっている番組がある。
テレビ朝日で放送されている『シッコウ!!〜犬と私と執行官〜』だ。このドラマのなかでは様々な「貧困」がとてもリアルに描かれている。若手の注目女優である伊藤沙莉が主演ということもあって見どころが随所にあるドラマだ。
民事裁判で確定判決に沿って債務者が債務を履行しない場合、財産などを差し押さえて競売にかけるなどの「強制執行」を行う執行官とその補助者が主人公だ。毎回のように「女性の貧困」や「学生の貧困」という切実な社会問題が背景になっているエピソードが丁寧に描かれている。
主人公の吉野ひかり(伊藤沙莉)は生活が苦しい家庭に育った女性だ。幼い頃から犬が好きで上京した後はペットショップに勤めていたが、その会社が倒産。裁判所の執行官の小原樹(織田裕二)と関わりを持つことになる。犬が苦手な小原から執行補助者として仕事を手伝うことを求められ、様々な「執行」に関わるようになるなかで法律が多くの人間を平等に守るものだと痛感するようになる。ひかりは次第に「執行官」になりたいという夢を抱くようになる──そんなあらすじだが、筆者が「貧困のリアル」との関連で特に印象に残った放送回を、セリフのやりとりなどを通じて紹介したい。