“ナポレオン街道”ここに始まる。1815年3月1日、サン・ジュアン湾に上陸しパリを目指す

“ナポレオン街道”ここに始まる。1815年3月1日、サン・ジュアン湾に上陸しパリを目指す

私たちは平和な時代に生きていると錯覚している

 なぜ人々は、ナポレオンを英雄としてまつりあげるのだろうか。

〈ナポレオンが戦争好きであったことは歴史の事実であろう。しかしそのナポレオンを支持したのは当時の大半のフランス国民である。そうでなければ、戦争に疲れ果てたはずのフランス国民が、ナポレオンに取って代わったルイ十八世の王政復古から、ものの四十年も経たないうちに、ルイ・ナポレオンを帝位につかせたりはしなかったはずだ。

 大衆はどこかで英雄を待ち望み、絶対権力に抱かれて暮らすことで安堵をしているのではなかろうか。しかしそうだとしても、それは大衆の弱さではなく、元々集団で生きるということは、そういう形態を取らざるを得ないのではなかろうか。〉

 英雄を生み出すのは大衆である。そして大衆の意志が戦争を肯定するようになる。「国家が急成長して、力を付けると大半の国民は傲慢になる。自分たちが世界の中心であると錯覚してしまう。それがやがて戦争を肯定し、後押しするようになる」と著者は説く。これはかつて日本が戦争に突き進んだ道のりとも重なるし、今のウクライナ情勢にも通じる真理ではないか。

 ナポレオンが破れたワーテルローの戦場跡で、著者は美しい野の花を目にする。そして一番星を眺めながら、「この星は、あの激戦の後、この丘陵を照らし出していたのだろうか……」と思いを馳せる。

〈私たちは平和な時代に生きていると錯覚している。ところが歴史の勉強をして行くと一目瞭然だが、世の中の構造が大きく変容するのは、そのほとんどが戦争を契機としている。歴史を学ぶ子供たちが教えられるのは、いつ戦争が起こり、その結果どんな世の中になり、その世の中を、どの戦争が変えたかである。何のことはない大量殺戮の年代順を学んでいるに過ぎない。〉

 ナポレオンは南海の孤島、セント・ヘレナ島で流刑人として最期を迎えた。皇帝として栄華を極めた英雄としてはあまりにも寂しい最期だった。いかにナポレオンが危険視されていたかがわかる。だが、その後、ナポレオンの遺骸はパリへと凱旋する。戦争に明け暮れた人物を、国民たちは再び英雄として迎え入れ、今に至っているのだ。

 どれだけ戦争の悲惨さに直面しても、私たちはまた同じ過ちを繰り返してしまうのか。ナポレオンの生涯をたどることは、人間と戦争についてあらためて考える契機となるだろう。

撮影/太田真三

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン