テレビ局にとって春と秋の年2回行われる改編は、業績アップを狙うだけでなく、スタッフや出演者の調整、スポンサー営業、PR効果などの点から重要なものですが、なぜこのようなズレが生まれはじめているのでしょうか。
情報があふれる中、目立つ重要性
改編期のズレは今秋だけのものではなく、近年ジワジワと見えはじめていました。ドラマの初回放送が前月に前倒しされたり、あるいは、次月に後倒しされたり。バラエティも前月に前倒し終了させて、移動番組や新番組を前倒しスタートするケースなどが少しずつ増えています。
その背景にあるのは、主に以下の2つ。まず1つ目の背景は、視聴率獲得のために考えた目立つための最善策であること。テレビだけでなくエンタメ全般の情報量が増えたほか、人気のある一部のコンテンツに注目が集中しやすくなるなど、以前より「タイミングよく報じてもらい、視聴者の目にふれる」ことの重要性が増しています。
基本的に「ストックを見てもらう」配信ではなく、「フローされる」放送を見てもらい視聴率獲得につなげるために必要なのは、PRの段階でより目立つこと。その点、民放各局の新番組やリニューアル番組が集まる改編期は情報が埋もれやすく、「前倒しや後倒しすることでメディアや視聴者にピックアップされやすくしよう」という意図があるようです。
また、以前から制作サイドの中で少なくないのは、「強力なライバルとの直接対決をできるだけ避けよう」という意図。たとえば、今春に新設されたテレビ朝日系・日曜22時のドラマ枠(ABC制作)は、春ドラマの『日曜の夜ぐらいは…』が4月30日、夏ドラマの『何曜日に生まれたのは』が8月6日と約1か月も遅いスタート時期が選ばれました。
これは「TBSの日曜21時(しかも22時にかかる拡大放送が多い)、日本テレビの日曜22時30分という2つのドラマ枠との真っ向勝負を避けるためだろう」と言われています。
大物や人気者への配慮と真の狙い
同様に今春、若年層もターゲットに含むドラマ枠にリニューアルしたテレビ東京・金曜20時は、春ドラマの『弁護士ソドム』が4月28日、夏ドラマの『ブラックポストマン』が8月18日と、やはり約1か月遅いスタート。『チコちゃんに叱られる!』(NHK総合)ほか各局のバラエティが休日前にしのぎを削る時間帯だけに慎重な姿勢がうかがえます。
また、ドラマが放送時期をズラす理由として忘れてはいけないのが、大物クリエイターや人気俳優への配慮。「彼らに『低視聴率』のレッテルを貼らないために、競争の厳しいところを避けて遅いスタートにしよう」、あるいは「裏番組を出し抜く形で早いスタートにして数字を狙おう」などの意図が見て取れます。
一方、バラエティで1か月程度、前倒しで終了させる番組が増えているのは、「良くないのなら、変えて良くなるのなら、早いほうがいい」「大きく報じられる改編期を避けてひっそり終わらせることで大々的に報じられずに済む」という2つの意識があるから。前者は「早めに手を打つほうが営業しやすく、スポンサーの理解が得やすい」、後者は「出演者とスタッフの名誉を守りたい」などの理由があります。
実際、前述した今秋のテレビ朝日は10月ではなく9月中に多くの番組を昇格・降格させましたが、どれもいい意味で悪目立ちすることはありませんでした。むしろ、「いち早く視聴習慣の定着を図ろう」という前向きな姿勢が感じられます。