【週刊ポスト連載・医心伝身】前号で眼瞼下垂は視野確保が難しいだけでなく、脳の覚醒を促す青斑核への刺激が不調になるため、心身に様々な症状が出ると説明した。治療としては松尾式眼瞼下垂手術法が開発され、全国に普及しつつある。これは外れた腱膜を瞼板に固定する際に動きも確保し、ミューラー筋による固有感覚が青斑核へ適度に届くことを考慮した手術で、抜糸の必要がない糸を使用する。
瞼を開けるための筋肉である上眼瞼挙筋は腱膜が瞼板に付着しているので、少し縮めば開け続けることができる。しかし、腱膜が瞼板から外れる眼瞼下垂を発症してしまうと上眼瞼挙筋を強く収縮する必要があり、結局は瞼を長く開け続けるのが困難になる。
腱膜が瞼板から外れているかどうかの診断は瞼に重りを置いて開瞼する負荷テスト、眉毛を押さえて瞼を開ける検査、ミューラー筋を縮める点眼テスト、電子瞳孔計、誘発筋電図、発汗計、脳血流計検査などを行なう。
前号に続き、信州大学医学部名誉教授で松尾形成外科・眼瞼クリニック(静岡県浜松市)の松尾清院長に聞いた。
「診断により眼瞼下垂だと判明したら、私が考案した手術法を行ないます。その目的は外れた腱膜を瞼板に固定し、努力なしに長時間、瞼が開いていられる状態に戻すことです。さらに脳の司令塔である青斑核を適度に刺激するミューラー筋のセンサーが、ほどよく引っ張られ、脳を覚醒させることも目指しています。同時に視野を確保するようにもしていきます」
この松尾式眼瞼下垂手術法の特徴は従来のミューラー筋に触る施術ではなく、直接、腱膜を瞼板に再固定することだ。手術の前に瞼の皮膚が伸びている場合は切除し、眼輪筋が多い場合には減量して外れている腱膜を瞼板に縫合する。次に上下の瞼の動きが容易になるよう調整した上で、瞼の折り畳み線にあたる重瞼線を作成する。手術は局所麻酔で行ない、時間は1~1時間半程度。なお、出血のリスクを考慮して術後は安静を保てる環境が望ましい。