岸田文雄・首相が唐突に「成長の成果である税収増を国民に適切に還元すべきだ」と、“減税”の経済対策を指示した。人気取りの減税路線へと舵を切ったのには大きなきっかけがあった。
首相の元に、自民党が9月中旬に行なった極秘の選挙情勢調査の結果が報告されたのだ。内容は衝撃的なものだったという。官邸官僚が語る。
「自民党の予想獲得議席は最悪のケースで220議席で単独過半数割れ。公明党も最悪2桁減らす可能性があり、自公合わせてなんとか過半数(233議席)を維持できる程度という内容だった。一番議席を伸ばすのは日本維新の会だが、立憲民主党も増えるので野党第1党は変わらない。調査は各選挙区の情勢をかなり厳しめに見積もったというが、それにしてもひどい数字だから、影響の大きさを考えて調査結果は党内にも漏らさない扱いとなっていると聞いている」
とても解散などできそうにない数字だが、それでも首相は解散を諦めきれない。そこで首相は冒頭で触れたように9月26日の閣議で、増税路線から減税への転換を指示したのだ。
「減税を掲げるなら戦える」
岸田首相の減税解散を後押ししているのが、こちらも苦戦が予想されている公明党だ。公明党は最大地盤である関西の6選挙区に勢いのある日本維新の会が対立候補をぶつけてくることから、次の総選挙は「背水の陣」の戦いを迫られる。早期解散は望んでいないと思われていた。
だが、山口那津男・代表は9月はじめに首相との間で東京での自公選挙協力を復活させることで合意すると、党内に「全力で準備」を指示し、関西6選挙区では公明党の現職議員が〈岸田首相、山口代表、本人〉の顔写真が並ぶ3ショットポスターを貼り巡らすなど急ピッチで選挙準備を進めている。
さらに9月23日には、山口氏が街頭演説で「岸田首相から『そろそろ解散したい』と言われた時に、与党がまだ準備できていないと言っていたのではチャンスを失う」と“解散望むところだ”の決意まで示した。なぜそれほど前向きなのか。公明党関係者が言う。
「公明党と支持母体の創価学会は4月の統一地方選が終わった後、7月から10~11月の解散総選挙を視野に本格的な総選挙準備を進めてきた。いったん総選挙シフトを敷いた以上、解散先送りは組織的にもたないという事情がある。苦戦は覚悟の上だが、岸田首相が減税を掲げるなら戦えると判断している」
岸田首相と公明党は、有権者に「減税」の餌を撒くことで苦戦を挽回しようという思惑で一致し、減税解散でガッチリ手を握ったことがわかる。