研究に没頭する村山聖と師匠の森信雄(右)

研究に没頭する村山聖と師匠の森信雄(右)

村山 あんまりじゃなくて、(将棋が)嫌いなんですけど(笑)。
米長 ウーン。将棋が嫌いでそれだけ指せるというのは珍しいねえ。普通は好きでないと強くならないわけだけどなあ。考えるのが辛いのかい。
村山 勝ち負けがあんまり好きじゃない。
米長 要するに勝負事が嫌いなのか。
村山 ゲームとかならいいんですけど、職業となると……。
米長 ああ、なるほど。他にゲームなんかはやる事あるの。
村山 トランプとかなら。
米長 それは、お金を賭けるのかい。
村山 ええ、ちょっと賭けて。
米長 でっかいギャンブルは好きではないわけだな。

村山 趣味ならいいんですけど、生死にかかわるやつはちょっと。
米長 なるほど。命を賭ける職業だからなあ。だけど、将棋をやってるからには、将棋が好きだった時もあるんだろ。
村山 ええ、最初は。奨励会に入った頃までは好きだったんですけど。
米長 だけど普通は、若くて勝てるから、それで将棋が面白いという事になるわけなんだけどなあ。
村山 いや、勝っても面白くないし。
米長 ハッハッハ。不思議な男だね。非常に面白いね。今後の希望というのはあるのかい。早く昇段したいだとか、タイトルを取りたいだとか、そういうのはないのかい。
村山 ありますけど……。
米長 やっぱりあるのか。
村山 まあ、早く将棋をやめたいな、と。
米長 やめたい!! ハッハッハッハッハ。

 村山さんが他界するのはこの11年後のことだ。いま読めば胸が苦しくなるような言葉もあるが、聞き手であった米長さんもすでに世を去った。

 村山さんの目には、勝負師とは思えない優しさが宿っていた。おそらく米長さんもそのことは感じたはずである。僕の手元には数え切れないほどの棋士の写真があるが、村山さんと同じような目をした棋士は誰もいない。

鮮やかな終盤でファンを魅了した

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※弦巻勝『将棋カメラマン 大山康晴から藤井聡太まで「名棋士の素顔」』より一部抜粋・再構成

【プロフィール】
弦巻勝(つるまき・まさる)/1949年、東京都生まれ。日本写真専門学校を卒業後、総合週刊誌のカメラマンに。1970年代から将棋界の撮影を始め、『近代将棋』『将棋世界』など将棋専門誌の撮影を担当する。大山康晴、升田幸三の時代から中原誠、米長邦雄、谷川浩司、羽生善治、そして藤井聡太まで、半世紀にわたってスター棋士たちを撮影した。“閉鎖的”だった将棋界の奥深くに入り込み、多くの棋士たちと交流。対局風景だけでなく、棋士たちのプライベートな素顔を写真に収めてきた。日本写真家協会会員。

将棋カメラマン:大山康晴から藤井聡太まで「名棋士の素顔」(小学館新書)

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