中村の人気を決定づけたのは、『俺たちの旅』(1975年)だった。中村演じる主人公のカースケは大学生という設定で、物語を作り上げる過程では、さまざまな生みの苦しみがあったという。
「学園ドラマにしろ、刑事ドラマにしろ、何かしらドラマがあります。生徒が問題を起こすとか、犯人を捕まえるとか。でも、『俺たちの旅』は何も起こらない。描かれるのは、アルバイトをしている大学生の日常です。最初に台本を読んだ時に、思わず脚本家の鎌田さんに電話したんです。『これ、ドラマがないじゃないですか』って」
そもそも『俺たちの旅』は、それまでの青春ドラマがターゲットとしていた中学生や高校生から、さらに幅広い層に届くよう、舞台を高校から大学に変更し、内容を一新することで始まった。大学生を主人公に、日常を映し出すようなドラマはそれまでになかった。そこで、岡田も鎌田も中村も、自身の若い頃の話を持ち寄っては物語の中に投影するなど、最初のうちは手探りの状態が続いたという。
「俺自身もいくつもアルバイトを経験していましたし、大学生の時は下駄を履いていましたから、それらを採用して設定されたカースケの衣装はすべて自前でした。『俺たちの旅』は、ドラマの最後にオリジナルの散文詩を入れているのが特徴のひとつです。今でこそ評価されていますが、当時としては苦肉の策。何のドラマも起こらないストーリーのなかで、『今回のドラマは、こういうことだったんですよ』というメッセージだったんです」
当初、『俺たちの旅』の放映期間は半年の予定だったが、高い人気を受けて1年に延長された。物語の後日譚として10年後、20年後、30年後のカースケたちの姿を描いたスペシャルドラマも制作された。長く愛されることになった人気の秘密を、中村はこう語る。
「時代に左右されない普遍的なものがテーマだったからだと思います。友情とか、人を愛することとか、人生とか、どんな時代であれ誰もが直面することがテーマでした。『俺たちの旅』が多くの人の共感を得たのは、自分のこととして捉えられる“リアル感”だったんでしょうね」