年齢を重ねるごとに抱える持病が増え、それに比例して服用する薬の量も増加していく。75才以上の半数近くが5種類以上の薬をのんでいる現在、複数の薬を同時に服用することで副作用が生じる「ポリファーマシー(多剤併用)」は深刻な社会問題だ。銀座薬局の代表で薬剤師の長澤育弘さんは、「それ以上に注意すべきは薬と食べ物の組み合わせ」だと指摘する。
「薬同士の危険なのみ合わせは製薬業界でもあらゆる論文や調査によって明らかになっており、医師や薬剤師にも注意喚起されています。一方で薬と食べ物に関してはデータが少ないことから、患者はもちろん医療者側も危険性に気がつかない人が多い。原因がわからない体の不調が、薬と食べ物の組み合わせによって生じていたというケースは少なくないのです」
医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌広さんも、薬と食べ物の組み合わせのリスクについて「命にかかわるような体調不良につながる場合がある」と話す。
「自分では気がつかないうちに相性が悪い食べ物と薬を一緒に摂り、それらののみ合わせによって薬が吸収されにくくなったり、反対に過剰に吸収されてしまうことで、重篤な事態を引き起こす可能性は大いにあるといえます」(上さん)
体調不良に見舞われてから後悔することのないよう、正しい知識で身を守りたいもの。そこで本誌は今回、12人の専門家へのアンケートをもとに、のみ合わせに気をつけるべき「薬と食べ物のワーストランキング」を作成した。
以下、12名の専門家に「薬と食べ物の危険なのみ合わせ」を5つ挙げてもらい、もっとも危険なのみ合わせから順に10点、9点、8点、7点、6点として計算した。
磯村優貴恵さん(管理栄養士)、鎌田直博さん(薬剤師)、上昌広さん(医師)、佐野こころさん(医学博士)、須永克佳さん(城西大学薬学部医療栄養学科教授)、高垣育さん(薬剤師ライター)、田中優子さん(田中病院院長)、長澤育弘さん(薬剤師)、中沢るみさん(管理栄養士)、堀美智子さん(薬剤師)、三上彰貴子さん(薬剤師)、武藤正樹さん(社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事)
健康食品が知らぬ間に体を蝕む
数ある組み合わせから、もっとも多くの専門家が危険だと判定したのは「カルシウム拮抗薬×グレープフルーツ」だった。城西大学薬学部医療栄養学科教授の須永克佳さんが解説する。
「グレープフルーツに含まれる成分であるフラノクマリン類は、薬を分解する代謝酵素『CYP3A4』の働きを阻害するため、副作用が増強したり、効きすぎたりする可能性がある。この相互作用がはじめて知られるきっかけになったのがカルシウム拮抗薬で、血圧低下によるふらつきやめまい、頭痛などの症状が出る恐れがあります」
フラノクマリン類が含まれるのはグレープフルーツだけではないと注意を促すのは、医学博士の佐野こころさんだ。
「温州みかんやレモンにはフラノクマリン類がほとんど含まれていませんが、はっさくや夏みかんには含まれています。柑橘類すべてが該当するわけではないからこそ、“大丈夫だろう”と食べたものにフラノクマリン類が含まれていた、ということがよくあります。
カルシウム拮抗薬の場合、効果は服用後も3〜4日ほど残るため、薬を処方されている間やのみ終えてからもしばらくは口にするのを控えるのが望ましいです」