メインを増やすほど難易度は上がる
つまり、MCや主演の人数を増やすことは、「スケールを大きくする」という攻めの戦略ではなく、「数字を下げない」という守りのマーケティング戦略。「成功させるため」というより「失敗のリスクを減らすため」「企画を通しやすくするため」「局内やスポンサーの理解を得やすくするため」に行うという意味合いが感じられます。
だからこそバラエティもドラマも、思い切った企画のときほど、MCや主演の人数を増やして“保険”をかけておきたいところ。実際、お笑い純度の高い『ジョンソン』と『オドオド×ハラハラ』、クリスマスの1日を1クールかけて描く『ONE DAY』、4人の会話劇で男女の友情を描く『いちばんすきな花』は、いずれも挑戦的な企画であり、「これを1組の芸人や1人の俳優に背負わせないほうがいいだろう」というニュアンスがうかがえます。
近年、ゴールデン・プライム帯でバラエティの単独冠番組が減りました。かつてはタモリさん、ビートたけしさん、明石家さんまさんを筆頭に、1つ下の世代のダウンタウン、ウッチャンナンチャン、とんねるずの単独冠番組を連日放送。さらにナインティナイン、くりぃむしちゅー、有吉弘行さんらにも受け継がれましたが、その下は千鳥くらいに留まっています。
『バナナサンド』(TBS系)や『火曜は全力!華大さんと千鳥くん』(カンテレ・フジテレビ系)らが思うような結果を得られないこともあって、このところ業界内で「MCより企画を前面に押し出したほうが見てもらえるのではないか」というムードが漂っていました。だからこそ『ジョンソン』も『オドオド×ハラハラ』も、今後は企画の面白さをアピールしていくのではないでしょうか。
MCや主演の人数を増やしたバラエティやドラマは、「台本・脚本や演出の難易度が上がる」という課題があります。全員の持ち味を引き出し、存在意義を感じさせられるか。出番や見せ場をどのように作ってバランスを取るか。バランスを取った結果、最も笑わせたいところや最も伝えたいテーマが伝わりづらくなっていないか。
構成作家や脚本家、演出家やプロデューサーの腕が試される形のキャスティング戦略であり、起用されたMCや主演以上にスタッフの気合が入っている番組だけに注目してみてはいかがでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。