新宿の歌舞伎町タワーに「ジェンダーレストイレ」が設置されたと報じられたとき、大きな関心を集めたものの運用の混乱が続き、2023年4月のオープンから4か月で廃止された。持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「誰ひとり取り残さない」実現のためだったが、時期尚早だったようだ。戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術を事実上の要件とするのは「違憲」だとする最高裁大法廷の決定が出たことで、トイレの運用は今後、どうなるのか。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、トイレ清掃の仕事に携わる人たちに、これからの対応について聞いた。
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「男性が女性用トイレに入って来たならお声がけはしなくてはなりませんが、これからどうすればいいのでしょうね。私にはよくわかりません」
都内、施設清掃に従事する女性に尋ねると「どうすればいいのでしょう」と不安げな様子。筆者とはコロナ禍からの知り合いだが、これまでも盗撮、痴漢、多目的トイレの目的外利用など、さまざまな事案に協力していただいた。
「男性でも女性なのでしょう。これまでも目についたら声掛けしてましたし、他の女性のお客様からの苦情を聞いたりもしましたが、難しいんですよ。男なのか、女なのかって」
10月25日の最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎)において、この国で社会の大転換が図られる可能性のある歴史的な判断がくだされた。
この国ではこれまで戸籍上の性別を変更するには生殖能力をなくすこと、とくに男性は女性になるための性別適合手術をしなければならなかった。しかし最高裁大法廷はそうした手術を強いることが「憲法違反」(憲法第13条)であるとし、無効の判断をくだした。
大法廷判事15人全員一致の「違憲」決定。これにより将来的には身体特性上まったく男性のまま、女性専用とされる場所を使用できることになる可能性が高まったとされる。
「そこまでの話になると、現場でどうこうできませんよ。施設や会社もいろいろ考えるのでしょうけど、私みたいなおばあちゃんには何が何だか」
本稿ではその最高裁決定とトランスジェンダーの根源的な問題については置く。主題はあくまでエッセンシャルワーカーの方々を始めとする現場にとっての判断と、今後に絞ったルポルタージュである。彼女は清掃の現場で日々さまざまな人々と接してきた。もちろん都内の繁華街、場所柄からトランスジェンダーの方々とも接する機会はあったと語る。