性別変更を巡る最高裁決定を受け、記者会見後に「差戻し」「違憲」と書かれた紙を掲げる申立人代理人の南和行弁護士(左)と吉田昌史弁護士。2023年10月25日(時事通信フォト)

性別変更を巡る最高裁決定を受け、記者会見後に「差戻し」「違憲」と書かれた紙を掲げる申立人代理人の南和行弁護士(左)と吉田昌史弁護士。2023年10月25日(時事通信フォト)

 彼女は「個人的な感想」と断った上で、こうも話してくれた。

「だって女性用トイレに男性が入ってきたら普通、女性は嫌でしょう。男の姿だけど女の心とか、いろいろな方がいらっしゃるのはわかりますけど、現場で判断できませんよ」

 正直な言葉だと思う。最高裁大法廷の「違憲」判断は重いが、社会的なコンセンサスとなると話は別だ。実際、今回の判断でも性器そのものの規定について高裁に差し戻している。性別適合手術をせずに男性器(ここでは便宜上、男性の性器とする)がついたままでも性自認が女性なら戸籍上の性別を女性に変更することができるが、ではその男性器がそのまま使えるのか、それともやはり女性のそれに近しい形状でなければならないのか、その点は判断を見送り、差し戻しとなった。

「もしそういう時代になるのなら、あきらかに男性の姿の方が女性用トイレに入ってきたらどうすればいいのか教えて欲しいです。それでも平気な女性って、私だって長く生きてきて、そんな人はいませんでしたから」

 この「教えて欲しい」もまた正直な声だと思う。これは他のエッセンシャルワーカーからも同じ声があった。

男女共同トイレに戻るのでは

 スーパーマーケットの従業員の話。

「女性用トイレに男性が入ってたら排除するしかないですよ。色々な事情はわかります。でも店としては多くの女性のお客様が不快に思うならそれは排除するしかない。あとは警察の判断ですね」

 現場レベルではそうするしかない、ということか。

「実際、女性用トイレや多目的トイレの事案って小さなものも含めればたくさんあるんです。この先『男性の姿でも心は女性なんだから女性用トイレを使用させなさい』というなら他の女性客に対してどう説明すればいいか、教えて欲しいですよ。お客様の女性一人ひとりに『トランスジェンダーとは』って現場が説得しろというんですかね、無理ですよ」

 これ以上の強い言葉はなるべく置き換えたが、それでも強めになってしまうのも仕方のない話、トランスジェンダーがどうこうではなく、現場がこれまでも「ではどうすればいいのか」を伝えられていない。現時点でもそうだろう。歌舞伎町タワーのジェンダーレストイレ(現在は廃止されて男女別)の騒動は記憶に新しいが、理念ばかりが先で「ではどうすればいいのか」が現実社会や労働現場に丸投げになっている。

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