それに対して首相官邸側は「本人に説明責任を果たしてもらう」と続投を容認。対応が遅いと言われ続けてきた岸田首相らしい。今回も首相はすぐさま動かなかった。首相なりの考えがあってのことだろうが、まるで「不作為バイアス」のようではないかと思った。不作為バイアスは、あえて何もやらない、やろうとしないことで、何かをしてマイナスになるより、何もしないでマイナスになる方がマシだと考える傾向のことだ。首相が何もしないというのは言い過ぎだが、自分が更迭しないで、辞任するのを待つという心理は、不作為バイアスのように見えてしまう。
どうやっても辞任が避けられないのなら、疑惑が報じられてから5日、神田氏が辞表を提出するまで待つより、すぐさま更迭した方が首相の印象はよかった。与党内からもそういう声が聞こえていた。なのに首相は説明責任を果たさせることを選んだ。
政務三役のうち3人が辞任するという異常事態。揃いも揃って与えられた役職や職務と関連する疑惑だった。立憲民主党の泉健太代表はこの事態に、「派閥順送りの人事を、そのままのみ込んでしまった。総理の罪は大きい」と述べた。首相に不作為バイアスの傾向があるならば、そこに派閥も影響しているということだろう。岸田首相の任命責任は重いが「政治というのは結果責任」という言葉には、そんな派閥人事の裏が透けて見えてくる。