『健康で文化的な最低限度の生活』(カンテレ・フジテレビ系、2018年)で演じた義経えみるは、前出の今日子ほどの不幸ぶりはないけれど、だからと言って幸せというわけではない。
映画監督になりたかった夢が破れて、公務員を選んだ、えみる。ケースワーカーとして、生活保護受給者たちと一生懸命に向き合う日々を描いていた。もちろん恋人はいない。吉岡里帆は、「どこかで無理をしてそう」な笑顔で頑張る女性の役がやけに似合うと思った。
『レンアイ漫画家』(フジテレビ系、2021年)で演じた、久遠あいこもなかなかの非モテヒロインだった。恋人どころか、仕事も夢も金もないアラサー女性。これまでつきあった男もクズばかりで、自称“ダメンズホイホイ”。そんなあいこが、人気漫画家と出会い、アシスタントのような仕事を始める。
「期待をしてがっかりするのも疲れたし、逆に人から期待されることもないのは、楽だけど寂しい……」。劇中でそう語るあいこは、今日子やえみると比べると自虐的な雰囲気のするイタいキャラクターだった。この頃からSNSで「吉岡里帆の役は不幸キャラが多い」との書き込みが目立つようになった。そして今年の『時をかけるな、恋人たち』へと続く。
吉岡がドラマで体現する「日本の若者」像
吉岡が好演する非モテ役は、ドラマの世界だけの話ではない。日本の若者の自己肯定感が低い傾向にあることは、たびたび指摘されている。
各国の13〜29 歳の男女を対象にした内閣府の意識調査(2018年)によると、「私は、自分自身に満足している」にイエス(そう思う、どちらかといえばそう思う)と答えた日本の若者は、45.1%。諸外国では73.5〜87%という結果に対して、あまりにも切ない結果だった。同調査で「自分には長所がある」と答えた日本の若者が46.5%に対して、諸外国は74.2〜91.2%と、こちらも大きく差が開いた。
調査時期と『きみが心に棲みついた』『健康で文化的な最低限度の生活』の放送は、ほぼ同時期。吉岡里帆が演じていた不幸キャラは、単なる想像の産物ではなかった。当時「吉岡里帆、不幸な役が続くなあ!(笑)」と、純粋にドラマを楽しんでいたのに。テレビドラマは世情を表すひとつのツールだと、改めて認識した。
当時から5年が経過して若者や女性の意識が上向いたかというと、そうでもないようだ。製薬メーカーのエーザイが、2022年に20〜59歳の女性を対象に行ったアンケートによると、働く女性の62%が自分に「自信がない」と回答している。
巷でよく聞く“自己肯定感”という言葉。意味や定義はいくつかあるようだけど、私が以前、精神科医から聞いてなるほどと思ったのは、「『ま、いっか』と思える気持ちのこと」だった。物事をそう受け流すことができず、発散もできず、自分の中にストレスを溜めていく若者が多いのかもしれない。