東京編に突入した朝ドラ『ブギウギ』からますます目が離せない。スターへの階段を上り始めたヒロイン・スズ子(趣里)を大阪で見守る「お母ちゃん」の存在感たるや。水川あさみ(40)の微笑みが懐かしくも切ない。
いつも銭湯の番台に座っていた大阪のお母ちゃん(ツヤ)は、義理人情に厚く、子どもたちのことを第一に考えている。『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』の著者で朝ドラウォッチャーの田幸和歌子氏が語る。
「しっかり者のお母ちゃんは序盤から印象的なキャラクターでした。演じる水川さんは大阪出身なので、ネイティブの大阪弁がとてもナチュラル。SNSなどを見ても“子どもの頃のオカンはこんな感じだった”と懐かしく感じている中高年の視聴者も多いようです」
第5話では、試験を受けられなかったスズ子とともに梅丸少女歌劇団(USK)に乗り込んだツヤが、「娘に試験を受けさせてください!」と頼み込むシーンがあった。
「菓子折りを持って強引に頼み込むツヤの姿が印象的でした。スズ子に似て、元気でよく喋って調子がいい。このお母ちゃんに育てられたからスズ子も元気に育ったんだなと納得させられました」(田幸氏)
しかし、ツヤはただ明るいだけのお母ちゃんではない。第5週ではツヤがスズ子の本当の母親ではないことが明かされた。
「実の母親はツヤの故郷・香川に住む友人・キヌ(中越典子)で、事情があってツヤが代わりに大阪で育てたという驚きの展開でした」(同前)
キヌを演じた中越は朝ドラ『こころ』(2003年)でヒロインを務めたが、その際に母親役を演じたのが趣里の母親の伊藤蘭だった。20年後に伊藤の娘と中越が親子を演じた巡り合わせには「何という粋な計らいだ」と朝ドラファンが沸き立った。
そして水川演じるお母ちゃんは、このエピソードを機にキャラクターの深みが増していく。
「キヌに『1年に1回は香川に連れて帰る』と約束していたのに、徐々にスズ子を自分の娘にしたいとの思いが強まり故郷に帰らないようになった。序盤で見せた立派なお母ちゃんの顔とは違い、スズ子への深い愛情ゆえの業の深さやエゴが垣間見えて新鮮でした」(同前)
スズ子が「東京に行きたい」と告げた時には、当然賛成すると思われたツヤは強く反対した。
「娘を手元に置いておきたいという“親心”からでしょうね。母親である前にひとりの人間なんだと感じさせるような弱さやズルさ、人間臭さが描かれていました。
最終的には『思いっきり歌って踊ってきなはれ!』と快く東京に送り出しましたが、ツヤの“陽”だけではなく、“陰”の部分を水川さんは見事に表現していました。従来の朝ドラで描かれた“どんな時もヒロインを見守る良母”とは一味違い、負の部分も見せるお母ちゃん像は斬新で、だからこそリアルに感じます」(同前)