受刑者が製作した品を集めた「全国矯正展」。2017年の同展を視察する安倍晋三首相(当時)。刑務作業製品は高品質でお買い得であることでも知られている(時事通信フォト)

受刑者が製作した品を集めた「全国矯正展」。2017年の同展を視察する安倍晋三首相(当時)。刑務作業製品は高品質でお買い得であることでも知られている(時事通信フォト)

刑務所暮らしは世事に疎くなるはずが

 Yの容疑は違法薬物の所持。SNSで客を集め、違法薬物を売買していたYは、街で警察官の職務質問にひっかかり、その場で現行犯逮捕されてしまったのだ。前にも薬物で逮捕歴があるYは常習者になるため、有罪は確定。違法薬物の売買について取材したかったのはもちろんだが、Yに聞きたかったのはそれだけではない。

 これまでに何度も逮捕されては有罪判決を受け、人生の大半を刑務所で過ごしてきたYは、ムショ暮らしが長くなると世事に疎くなりやすいといわれる業界の通説に反し、入る度に様々な知識やスキルを身に付けて出所してきた。詐欺の方法やカード類などの偽造の仕方などを受刑者たちから聞いたという話は、他のヤクザらからも聞いたことがあるが、ITのスキルについては聞いたことがなかったからだ。

 刑務所では受刑者に対し、就労支援や職業訓練が行われる。ある程度の年齢までなら訓練生として選定され、資格を取ることも可能だろうが、Yはシニアに近い年齢であり再犯者だ。「服役したら職業訓練ではなく刑務作業になる。木工とか印刷とか、それでなければ洗濯とか。だから今回、出所してきたばかりのあいつがサイトの作り方を知っていたり、スマホでアプリやSNSを駆使できたのか不思議でね」とD氏はいう。

 前回逮捕され、Yが服役している数年の間に世の中はメールより、SNSによるやり取りが主流になった。逮捕されれば、留置場に入るタイミングでスマホは取り上げられる。刑務所にはスマホやタブレットはおろか、パソコンもない。あるのはテレビだけだ。テレビがあれば世の中の動向ぐらいはわかるだろうが、スキルまでは身につかない。IT関係の本でも誰かが差し入れしたのだろうか。刑務所の中でYはどのようにしてアプリやSNSなどの知識を得たのか、取材できるのは数年後になりそうだ。

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