にわかに注目を集めている官房機密費(正確には内閣官房報償費)。“機密”というベールに包まれたカネは一体何のために存在し、何に使われてきたのか。これまで幾度となくこの問題を追及してきた本誌・週刊ポストだから書ける真実を、白日の下に晒す。【前後編の後編。前編から読む】
1億円を持ち帰った首相
野党工作にも多額の機密費がアメとして使われてきた。1989年、竹下登内閣は「消費税」を導入するために、ひそかに機密費を大幅に増額した。国対経験豊富な自民党OBの証言だ。
「国民の猛批判の中で消費税法案を国会で成立させるには巨額の国会対策費が必要だったが、機密費予算を増額すると言えば野党が反発する。そこで外交機密費を増額し、官邸に上納させる仕組みを編み出した。20億円くらい上納させたと聞いている。
そのカネを使ってわれわれが野党幹部と内々に話をつけた。野党はあくまでも採決に反対するが、自民党が強行採決するのは認める。国会審議が大荒れになった時、野党幹部の1人が上着を脱ぐ。それをサインに自民党は採決してくれという出来レースだった」
国民を苦しめる消費税は「機密費20億円」で創設されたというのだ。その後も、政界では国会が始まると自民党から野党の国会対策委員に機密費で購入した数万円分のワシントン靴店の「靴券(商品券)」が渡される慣行が長く続いた。
本誌記者が目撃した場面では、自民党国対から差し入れされた菓子の紙袋に白封筒がポンと入れられ、中に1000円の靴券20枚が入っていた。もらった野党議員が、「これだよ。機密費」と見せてくれたのだ。
「野党対策」で機密費がもらえるとなると、自民党議員たちは官邸に“おねだり”に行くようになる。
国会では夏の閉会中などに与野党の議員団が委員会単位で海外視察に行く。団長の自民党議員は出発前に官邸に挨拶に行き、「次の国会では重要法案がかかる。野党にしっかり根回ししてきます」と首相や官房長官から100万円程度の餞別(機密費)をもらうのだ。
政界が政党再編に揺れ動いていた頃には、1億円ほどの機密費を現金で地元に持ち帰った首相がいた。
その首相は翌日に地元入りを控え、宴席でしたたかに酔って官邸に戻ってきた。そこに時の官房長官が、「総理、明日のお土産です」と大きな紙の手提げ袋を渡した。菓子の詰め合わせが入っていた。酔った首相は「おっ、重いな」と公邸に持ち帰り、翌日、秘書官に持たせて地元に帰省した。