日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。今回は、ベトナムからの技能実習生として来日し、働きながら進学のための勉強をし、母国の農業に寄与したいと志すゴー・ティ・トゥー・タオさんにうかがった。【全4回の第1回】
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北海道東部、北見市に隣接する美幌町。オホーツク海から30キロほど内陸に入った、たくさんの川が流れる町だ。
ベトナム出身のゴー・ティ・トゥー・タオさんは2017年、この美幌町の農業協同組合技能実習第一期生として同郷の女子3人と共に来日した。日本に興味を持ったきっかけは、ベトナムのスーパーでアルバイトをしていたときに知った日本の野菜。高価だが、消毒をせずとも食べられる日本産の野菜に、ホーチミンの大学で化学を学んだタオさんは関心を持ったという。
収穫物の選別や農作業など、早朝からの仕事もこなしながら3年間の実習生活を送り、周囲からの勧めもあって、やがて大学院への進学を考えるようになった。一度帰国してから再来日しようと思っていた2020年、世界をコロナ禍が襲う。帰国が叶わなくなり、タオさんは日本に留まり仕事と勉強を続けた。その年の8月に、国立北見工業大の修士課程に合格。そして今年(2023年)の春、大学院博士課程に進学した。
タオさんにインタビューしたいと思ったのは、美幌町の実習生を紹介する(数年前に作られた)動画を見て、タオさんの話し方に惹かれたからだ。正直で温かな人柄が伝わってくる「心が乗っている」日本語だと感じた。どうやって習得したのか、ぜひ聞きたいと思った。
オンラインで行ったインタビュー、タオさんは実験のために毎日通っている大学の構内からアクセスしてくれた。思った通りの明るい雰囲気に、こちらの心もほぐれた。まず、日本語を勉強し始めた頃の話から……。
「最初は、技能実習生候補者が学ぶベトナムの日本語センターで勉強しました。ひらがなとカタカナがなかなか覚えられなくて、覚えるだけで2か月くらいかかりましたね。私だけじゃなく、他の人たちも大変そうでしたけど、私は結構先生に叱られてました。クラスの中には、日本語能力試験のN4(基本的な語彙、簡単な話題を理解することができるレベル)を持っている人もいたので、そういう人たちに比べると自分はもう全然できない。つらかったし、日本へ行ってもただ働くだけでいいと言われていたこともあって、日本語あきらめようと思ったりもしました。
でも、なんとか頑張って成績も上がって、10か月勉強したあと日本へ来たんですが、自分の日本語、全然通じませんでした。というか『日本人が話す日本語』が聞き取れなくて、びっくりしました」