11月場所が終わった頃から、湊部屋の後援会関係者の手元に1通の封書が届き始めた。差出人は「逸ノ城駿」。5月4日、相撲協会に突然の引退届を提出したモンゴル出身の元関脇・逸ノ城からの封書である。その封書の内容は、次のようなものだった。
〈拝啓 晩秋の候 貴台様には益々ご清栄のこととお慶び申し上げます
さて逸ノ城こと平成二六年一月場所初土俵以来 皆様方のご庇護のもと相撲道に精進して参りましたが 体力気力限界を感じ令和五年三月場所をもちまして引退いたしました
長年に渡りご支援ご声援賜り 心から感謝し厚く御礼申し上げます
就きましては 左記により『断髪式』を執り行う事に相成り ご親交がありました皆様方に『お鋏み』を頂戴いたしたく御願いとご案内を申し上げます 敬具〉
やや文意が通じないところもあるが、「断髪式」の日時は令和六年二月十一日で、場所は都内のホテルとなっている。
元関取であれば普通は国技館で断髪式を行なうものだが、師匠の湊親方(元前頭・湊富士)と袂を分かつ形での引退となったため、ホテルでの断髪式となったようだ。招待状は、親方との連名のかたちにもなっていない。異例ずくめの断髪式の案内状となっているが、後援会関係者の間で話題になっているのが「会費」だという。案内状には1人3万円と明記されている。後援者のひとりが困惑した表情で話す。
「通常の国技館での引退相撲はチケットを買えば誰でも観戦できるもの。その引退相撲のなかの断髪式に参加する場合、チケットは招待となるが、“ひと鋏10万~20万円”の祝儀を包むのが一般的です。元横綱・白鵬(現・宮城野親方)のように鋏を入れる権利がついた100万~500万円のプレミアムチケットを販売する異例のケースもあるが、普通はできるだけ多くの人に鋏を入れてもらって祝儀を集めることになる。
そういう意味では逸ノ城への鋏入れが3万円というのは安いと思う。ただし、この案内状に書かれた会費とは別に鋏入れの祝儀が必要となれば話が変わってくる。国技館の断髪式は女性が土俵に上がれないことから、大半が男性の後援者になる(女性は土俵際まで椅子をズラして土俵に上がらずに行なう)。しかし、ホテルだと女性も鋏を入れられる。夫婦の連名で招待状をもらっていると、祝儀が最低でも20万円かかるということになる。
それに出席すれば親方もいい顔をしないだろう。親方公認のイベントとして国技館でやってくれたほうが雰囲気もあったし、慣例に従って祝儀を包むこともできたんですが……。逸ノ城のホテルでの断髪式は、祝儀を包もうか迷っています」