往年の野球ファンが熱狂して見守ったライバル関係のひとつが、1980年代の巨人で熾烈なエース争いを演じた江川卓(68)と西本聖(67)だ。「空白の一日」を経て入団した“怪物”と、ドラフト外の“雑草”─何もかも対照的な二人は現役時代「不仲」とも報じられた。今回、メディア初対談で、今だから明かせる真相と当時の裏話を語り尽くす。(聞き手/ノンフィクション作家・松永多佳倫)【全3回の第1回】
──お二人の対談は初めてだとお聞きしました。
江川:こうやって本格的に対談するのは初めてです。何十年もずっと「共演NG」だと思われていたんじゃないかな。
西本:二人の間には何もなくて、仲良いのにね。
江川:初めて会ったのは、俺が作新(学院)3年の春にニシ(西本)がいる松山商業と練習試合したんだよな。
西本:僕は2年生で、たしか作新のグラウンドで練習試合をした。ブルペンの隣同士で投げたのが最初、覚えてる?
江川:覚えてるよ。松商のピッチャーがいいって聞いて、足を高く上げていたのが印象的で今でも記憶に残っている。
西本:高校の監督が“怪物”江川と対戦させたいがために遠征試合を組んだんだと思う。ブルペンでの球が速いのなんのって、ボールが浮いているのを初めて見た。
江川:ブルペンでは浮くボールは投げないから。
西本:いや、あれは浮いてた。あんなボール初めて見たから忘れない。
江川:ニシの同期ってドラフト1位は定岡(正二)だよね。ニシはドラフト外。当時は6位までしか指名されないんだっけ?
西本:そう。スカウトから指名するって言われてたんだけど、蓋を開けたら指名されず、明治大学へ進学するつもりだった。でも巨人がドラフト外で獲るって話になって、カープにいた兄貴(明和)の後押しもあって入団することになった。
江川:やっぱりドラ1の定岡には対抗意識を燃やしてた?
西本:燃やしたんだけど、意外に早く抜いちゃった(笑)。やっぱりずっと意識していたライバルは江川さんだよ。正直、ドラフトの時はローテの枠が1つ減るから「入るな」と祈ってた。入ってきてからは、いかに追いつき追い越すかだった。とにかくストレートの伸びが異常で、羨ましいというより脅威としか思えなかった。