「アメリカではお付き合いを始める時に、“あなたのことを本当に大切にしようと思っている”と意思表示するためにSTD(性感染症)の検査を受けて、陰性証明書を渡し合う文化があるんです。必ずそうするわけではありませんが、真剣な交際を考えている場合はお互いへのリスペクトとして証明し合うことがよくあります。
私も初めて渡された時には、“えっ、これは何のため!?”とびっくりしました。でも“こうすることは普通のことなんだよ”と教えてもらい、意味を知ることで、すてきな文化だなと感じました。アメリカは性感染症に関するコミュニケーションが活発で、恋人だけでなく友人同士でも、STDについて気軽に話すことが普通なんです」
こう語るのは、21歳で単身渡米し、アメリカのロサンゼルスを拠点に活動するプロダンサーのMaasaIshihara(マーサ・イシハラ)さん(34才)。日本人離れしたダンスと表現力で世界的スターのジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデと共演するなど、厳しいエンターテインメントの世界で実力を認められている。目下、アメリカのエンタメ業界で最も有名な日本人の一人とも言われている。
そのキャリアを生かし、2023年度から厚生労働省「健康一番プロジェクト」サポーターに就任。精力的に活動している。
12月19日にはその取り組みの一環として「『梅毒』感染症拡大問題ディスカッション」に参加し、東京・桜美林大学新宿キャンパスを訪れた。
梅毒は一昔前の病気と思われがちだが、近年、感染が広がって深刻な問題となっている。国立感染症研究所の調査によると、2023年の全国の梅毒患者報告数は11月19日現在で1万3251人(速報値)。この時点で2022年の1万2966人を上回り、統計を開始した1999年以降で過去最多を記録している。男性は20~50代、女性は20代で突出して患者数が増加。そこで、感染が広がっている若い世代と意見を交換し合う場が設けられた。
「今日お話をした学生さんは、梅毒の無料検査があることを知らなかったそうです。梅毒は初期であれば、有効な治療法があります。ただ、感染から時間が経つと長期の治療が必要となり、体にも深刻な影響が出てしまう。無症状のまま感染に気付かないケースもあり、検査はとても重要なんです。
ただし、学生の皆さんが自分たちの世代に増えている梅毒について関心がなかったわけではありません。本当は恋人と最初に性感染症についてコミュニケーションを取りたい、行為をしてからでは遅いと、わかっている人たちもいました。でも、“大切なことだけど、あまりにもデリケートな話題だから、付き合いたての時にはどうしても話しづらい”って。
日本では、性感染症について話すことにタブー観が強いように感じました。アメリカではもっと身近な病気で、検査やケアについてカジュアルに話し合うだけでなく、感染した人が近くにいても“ウッ……”と遠ざけるようなことがありません。過剰な偏見がないんです。“性感染症について正しく知る機会がもっと増えたらいいのに”という大学生の皆さんの意見を、重く受け止めました」(Maasaさん、以下同)