暗号資産は戻ってこない
回収がもっと難しいのは、暗号資産で入金した場合だ。被害者は、犯人からの指示で暗号資産の取引所へ登録し、そこで購入した暗号資産を指定先のアドレス(銀行口座のようなもの)へ送付する。詐欺だと気づいて弁護士事務所へ相談しても、銀行振込とは異なり、被害金は戻ってこない。
東京投資被害弁護士研究会が2021年9月下旬から1年間に受けた相談件数は208件で、被害総額は約34億円だった。同会には150人を超える弁護士が所属しているが、暗号資産で送金した被害者の被害金が回収できたケースは1件もなかった。この期間以降、現在に至るまでも報告されていない。
暗号資産への投資で回収が困難な理由について、金田弁護士が解説する。
「犯人の口座(ウォレット)がある取引所は、暗号資産の送付アドレスを追跡していけば特定することは可能です。ただ、その取引所が犯人の口座情報を開示してくれなければ、現金の差し押さえも個人の特定もできません。ほとんどの場合は海外の取引所が使用されており、弁護士が開示を要求しても応じてくれず、犯人の特定さえ困難です。だから暗号資産を購入した被害者には、被害金は原則、回収できないというお話をします」
日本の警察も「暗号資産は利用者の匿名性が高く、追跡が困難なものがある」との認識を示している。それでも悪徳弁護士にそそのかされ、着手金を支払ってしまった場合、委任契約を解消して着手金の返還を求めることはできる。しかし、支出した費用の精算を求められる場合があるため、全額を返してもらえるとは限らない。すでに多額の被害に見舞われた被害者にとっては、怒りのやり場もないだろう。
被害金の回収は極めて難しい──。着手金を支払う前にいま一度、立ち止まって考えて欲しい。