今年は世界的な“選挙イヤー”となるが、最も注目されるのが11月の米大統領選だ。ロシア、中東情勢が混迷を極めるなか、誰が次期米大統領になり、どう動くのか。そして、中東では「核の連鎖」が懸念され、他の地域への影響も囁かれる。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が、2024年の世界情勢を読み解く。【全3回の第3回。第1回から読む】
手嶋:核戦争の影は日本列島にも延びています。核兵器がひとたび使われてしまえば、台湾有事でも核使用は現実の選択肢に浮上します。
いまや超大国アメリカは、ウクライナ、中東、台湾、朝鮮半島という「4つの戦略正面」に対応を迫られています。その結果として「習近平の中国」に対する抑止力が殺がれ、台湾海峡のうねりは高まりつつあります。台湾を「核心的利益」とする中国が米国の“力の揺らぎ”に乗じて武力解放に踏み切れば、日本も軍事行動を共にせざるをえない。米中がいざ戦えば、米軍基地のある日本列島は、中国が放つミサイルの標的になります。
佐藤:危機感を抱いた台湾が中東の核拡散に乗じ、メイド・イン・パキスタンの核を買おうとしたら、阻止することは難しい。
手嶋:岸田内閣は防衛費を43兆円に増額し、誘導ミサイルを開発して対岸の中国軍の水門空軍基地を攻撃する能力を備えるとしています。だが自前のミサイル開発には課題が山積しています。いまは米国製のトマホークに頼って買い物計画に走らざるをえない。米国の軍産複合体は喜ぶでしょうね。
佐藤:北朝鮮の金正恩総書記は米大統領選のヘビーウォッチャーです。最終的にバイデンには核のボタンを押す決断力はないが、トランプは予見不能と恐れているのではないか。トランプはディール(取引)外交が基本ですが、金正恩が際どい挑発をしたら逆上して核を発射するかもしれません。
手嶋:米国がウクライナや中東の対応に追われて東アジアに戦略的な空白が生じれば、朝鮮有事が現実味を帯びてきます。金正恩は弾道ミサイルや巡航ミサイルの発射実験を繰り返しています。
佐藤:朝鮮戦争時に創設された朝鮮国連軍の後方司令部は2007年11月に横田基地に移されましたが、北朝鮮が横田を攻撃するミサイルの軌道が逸れて東京都心に着弾する懸念さえある。
手嶋:2023年のガザ紛争は第5次中東戦争の危険を孕み、さらには第3次世界大戦の芽を孕んで推移しています。世界は新しい年、最悪の事態に備えておくべきでしょう。