評価値だけじゃわからない
芦沢:今年最初のタイトル戦は、1月7日に第1局を迎える菅井竜也八段(31)との王将戦七番勝負です。トップ棋士のなかでは数少ない振り飛車党として知られる菅井先生の将棋には、戦法にかけるこだわりと「熱い思い」が感じられますね。
先崎:確かに藤井さんを含め、現在のトップ棋士のほとんどは居飛車党です。実際、最新のAI研究では、振り飛車側の評価値は序盤作戦において若干ポイントが低くなる傾向があるとされています。それゆえ「振り飛車は“不利飛車”」と言う人もいますが、居飛車と振り飛車の対局は持久戦になることが多いため、序中盤で少々評価値が低くても、十分に勝負に持ち込めるという側面もある。
芦沢:居飛車党で知られるトップ棋士の豊島将之九段(33)が昨年、ある対局で振り飛車を採用し、話題になったこともありました。研究の進んだ居飛車対決の戦型よりも、対藤井先生という意味では振り飛車が作戦的に有効ということも言えますか?
先崎:振り飛車というのは競馬にたとえるなら重馬場でのレースで、場の空気を大きく変えることのできる作戦です。藤井さんが振り飛車を苦にしているというわけではありませんが、ひとつの対抗戦術としては有力ですよね。昨年の叡王戦五番勝負でも互角の戦いを見せた菅井さんの戦いぶりは要注目です。
芦沢:昨年、二度にわたって藤井先生にタイトル挑戦した若手の佐々木大地七段(28)、そして同学年の伊藤匠七段は今後、藤井先生のライバルになっていくのではないかと思います。まだ28歳の佐々木先生ですが、かつて棋士の「ピーク」についてお話しされていたことがありました。20代の若手棋士でもそうしたことを意識されるものなのでしょうか。
先崎:将棋の世界は数学者の世界にも似ていて、若いうちに全盛期が訪れるという感覚はみな持っていると思います。まだ若いからといって安穏としているわけにはいかない。AIの登場が、その意識をさらに強めているように思えますね。