ほとんどの読者なら察しがつくだろうが、結局この副業で松尾さんが報酬を得られることはなかった。松尾さんは、いわゆる「情報商材(教材)」を売りつけられるだけの、典型的な副業詐欺に取り込まれてしまったのである。
「教材をしっかり見れば、誰でも短時間で多くの記事を書けると説明されましたが一向にウェブサイトに掲載するものが書けず、当然収益も出ない。担当者に相談しても”他の人は稼げている”とか”あなたの方法がおかしい”と言われるばかり。その後、副業詐欺に注意、といった法律事務所のネット広告を見つけ、私は騙されたのかと唖然としました」(松尾さん)
増える副業紹介サイト
経済界や政府も推し進める「副業」だが、本業の合間にやる副業は、誰でも簡単にできるもの、とするイメージがなぜか拡がっている。そういった印象は、前出の松尾さんが見たような副業ビジネスへ誘うサイトの林立も原因の一つだろう。だが、副業であっても本業であっても、それで収益が得られなければ仕事として成立しているとはいえない。何より、誰でも彼でも簡単にできる、などという仕事は世の中に存在しない。その確認を怠った松尾さんにも失敗の責任がないとは言えない。
「副業って、なんとなく簡単で隙間時間でできて……というイメージがありましたし、手に職をつければパートを辞めて、自宅でゆっくり仕事ができるなんて想像していました。お恥ずかしい限りです」(松尾さん)
松尾さんのように、副業へのフワッとしたイメージを持っていたが為に騙されたという人は、怪しげな副業紹介サイトが雨後の筍ごとく登場する現実を見る限り、増えているはずである。筆者が取材した中には「中高生でも稼げる副業」といった広告を出している業者もあった。関係者に取材を進めると、アダルト系のチャット嬢のバイトを斡旋されたり、キャバクラやガールズバーなどに派遣されてしまうパターンもあった。もし本当に中学生にそのような内容の仕事を斡旋しているのだとしたら違法である。それでも、その種のサイトが林立しているのは、やはり「誰でも簡単に」とか「短時間で」といった文言が踊るサイトを経由して登録してしまう若者がいるからだろう。副業の意味を勘違いしているのが、中高年だけではないことも想像がつく。
冒頭の経済部記者による見立てのように、本来、本業一本で十分な給与をもらえていれば、副業などする必要もない。ここで紹介した、騙されたような形に陥ってしまっている人たちのほとんどは、非正規労働者や主婦などであるため十分な給与を得ておらず、だからこそ「ブームの副業で」と思い込んでしまったのだ。
政府はもう何年も企業に「賃上げ」を要求し続けているが、ごく一部の業種や大手企業を除けば、正社員を増やす、給与が上がるという気配は感じにくい。こうした被害者を生み出している遠因とも思えてならないが、どうだろうか。