主要3政党が争った台湾の総統選は、与党・民進党の頼清徳氏が当選を決めた。その趨勢とともに注目されたのが、選挙結果に影響を及ぼそうとする中国の“工作活動”だ。ルポライターの安田峰俊氏が、現地取材でその実態に迫った。
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1月13日、台湾の未来を決める総統選と、国会選挙に当たる立法院選が行なわれた。総統選は終始、台湾意識が強い与党・民進党の頼清徳候補の優勢で進んだ。
選挙は国際的注目を集め、200社以上の海外メディアが取材。日本はもちろん、チェコやコロンビアの記者まで訪台するという異例の事態だ。
「今回の選挙に世界の関心が高いのは、中国の選挙介入が注目されているためだ」
台湾の淡江大学国際事務・戦略研究所助教で、中国人民解放軍を研究する林穎佑は話す。
今年は台湾のほか、韓国・インド・ロシア、衆院解散があり得る日本など、各国で国政選挙が続く。11月にはその締めくくりとして、アメリカ大統領選が控える。
「今年最初の選挙である台湾総統選は、秋のアメリカ大統領選に対する中国の介入を考える上で最適なサンプルだ」
中国は台湾を虎視眈々と狙っている。ゆえに彼らは「台湾独立派」とみなす民進党を攻撃し、中国との融和を唱える野党・国民党などの支持拡大を狙う各種の工作を実行し続けている。
「中国の主要な工作手法はふたつ。統一戦線工作(通称・統戦、協力者の獲得)と、ディスインフォメーション(誤情報の流布)です」
政府関係者と協力して中国の工作をリサーチする、アナリストのハーパー・コは話す。前回(2020年)の総統選と比べ、中国による「統戦」は強まっているという。
「地域に影響力を持つ里村長(町内会長)などを個別に中国に招待し、その親族らのビジネスを支援するなどの取り込みが目立っています」