世論のキーパーソンを狙い撃つ中国の工作が進んでいたのだ。その対象は候補者にも及んでいる。
1月上旬には、第二野党の民衆党に籍を置く立法院選の女性候補者・馬治薇(無所属で立候補)が、中国の情報機関から470万円相当の仮想通貨を受け取っていたことで台湾当局に拘束されたと報じられた。
民衆党は既存の二大政党を批判するニュー政党で、ポピュリズム的な主張で若者層を中心に支持を集めている。今回の立法院選で与党の民進党と最大野党の国民党の議席数が拮抗すると、民衆党がキャスティングボートを握り、党の実勢以上の影響力を持つ可能性が高いと見られてきた。
中国にしてみれば、政局への影響力が強いのにワキが甘い「第三極」の党は、買収工作の格好の対象というわけだ。
ほかにも国民党の元議員が、中国側から接待ツアーを受けたことで一時取り調べを受けるなど、中国の協力者獲得工作は激しさを増している。
「女性を連れ込む動画」を拡散
情報工作が疑われる動きも激化していた。
昨年10月には、民進党の行政院副院長(国会副議長)の鄭文燦と似た男性が、中国領マカオのホテルで売春婦らしき女性を部屋に連れ込む動画がネットで暴露された。
対して鄭文燦の反論は「動画は古く、編集されている」と歯切れの悪いもの。民進党の支持者はリベラル気質が強く、ジェンダー問題に厳しい人が多いため、党の打撃は小さくなかった。
「動画を暴露したのは中国のIPアドレス。(事実関係はさておき)撮影時期は古いと見られ、選挙前のタイミングで表に出たのは不思議だ」
中国の情報操作を研究する民間シンクタンク「民主実験室」CEOの呉銘軒はそう語る。
事実、動画の日付は2011年と古く、ホテルの監視カメラの映像と見られた。中国の情報機関が保存していた過去のデータを、時期を見計らい流した可能性が高い。
より過激な事件もある。1月2日夜、別の中年男性の生々しいセックス動画が多数流出したのだ。
男性は民進党議員の羅致政とされ、国民党側はわざわざ画面を公開する形で記者会見を実施。対して羅致政は動画がAIを使用したディープフェイクだと主張し、総統候補の頼清徳も中国の選挙介入の可能性を指摘した。前出の呉銘軒は言う。
「動画はマイナーな動画サイトにアップされたにもかかわらず、直後に(中国の影響下にある)香港メディアで報じられており、やはり拡散の経緯には不自然さが残る」
1月9日にはさらに、羅致政と現総統の蔡英文に似た声の電話音声も流出している。
会話には呉ショウ燮外交部長(外相)ら複数の党幹部を批判する内容が含まれていた。音声がフェイクにせよ盗聴されたものにせよ、暴露に党内の相互不信を煽る意図があるのは明らかだ。
民進党側は、この一件も中国の工作である可能性を指摘している。