発砲事件があった付近の現場を捜査する警察官(イメージ、時事通信フォト)

発砲事件があった付近の現場を捜査する警察官(イメージ、時事通信フォト)

手柄を立てて高揚した感覚

 幹部のいう「ヤクザ冥利」はいかにもヤクザらしい感覚のもので、抗争や準抗争と関係する。「個人的な恨みや諍いによる自分ごとではなく、抗争などの組ごとで”ワッパをはめられた”時」だと幹部は説明した。抗争相手の組や幹部を襲撃し手柄を立てその罪状で逮捕された時と、その時の高揚した感覚をいうらしい。それは襲撃犯が自分ということが、組にも抗争相手にも暴力団業界にも明らかになることで、ヤクザにとって世間的に名が知れる時でもある。

「暴力団で出世するには組や親分にどれだけ貢献できるかだ。自分のことより組や親分が優先、自己犠牲も厭わない。前科はヤクザにとって勲章。組ごとでの逮捕はヤクザにとって誇らしく、出世の手段だった」。だが今は状況が大きく変わった。「下手に事件を起こせば、使用者責任で親分の身体が持っていかれる。今まで俺たちがやってきたような事は組のためにならなくなっている。ヤクザ冥利になる機会がなくなりつつある」(幹部)。

 例えそのような機会を命じられても、「身体を張って襲撃し、懲役に行くのはいいが、出てきたら組がないという可能性を考えると、長期の懲役が課されるようなやり方は無理だ」と話す。組の先行きが不安で「怖くて長い懲役にはいけない」という。この数年、暴力団同士の抗争や諍いでは発砲事件が減り、トラックやバンで相手の事務所や自宅などで突っ込む事件が増加している。ヤクザ冥利に尽きると言えるような機会は、もう極道映画や極道ドラマの中だけかもしれない。

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