2007年に営業を開始した台湾新幹線では、当初、台湾人運転士の養成が遅れ、当面はフランスの高速鉄道TGV経験者ら欧米人が運転していた。写真は、2006年11月、海外メディアを招いた試乗会で公開された台湾新幹線の運転席(時事通信フォト)

2007年に営業を開始した台湾新幹線では、当初、台湾人運転士の養成が遅れ、当面はフランスの高速鉄道TGV経験者ら欧米人が運転していた。写真は、2006年11月、海外メディアを招いた試乗会で公開された台湾新幹線の運転席(時事通信フォト)

 鉄道運転士の国家資格である「動力車操縦者運転免許」は、20歳未満は試験を受けることができないとされている。それを18歳へと引き下げれば、理論上では高校を卒業したばかりの新入社員も列車の運転が可能になる。また、外国人を運転士として採用できれば、人数としては人手不足解消の見込みが立つ。

 そんな思惑が透けて見える案だが、仮にこの案が実現しても運転士を確保できるとは思えない。なぜなら運転士の処遇を改善しなければ、一時的に運転士が増えることはあっても離職する運転士も増えてしまうからだ。

 運転士は鉄道業界で花形だが、その見た目に反してストレスの多い職でもある。もし、運転中に人や自動車、動物など接触するのを避けるために急ブレーキをかけたことで乗客を負傷させれば責任を負う。また、そうした労働環境に対して、驚くほど薄給であることから家族や今後を考えて離職する運転士も少なくない。

 鉄道車両の運転以外の業務も担うことが増えている。近年は都市圏でもワンマン運転が増えているが、利用客から下車駅や到着時間を訊かれることも多々ある。さらにICカードのチャージ操作といったサービス業務もこなしている。

 ゆくゆくは運転士になることが決まっている状態で新入社員として入社しても、いきなり運転士になるための訓練だけをすることは希だ。通常、駅員や車掌といった業務をこなしていくことで鉄道員としての経験を積んでから、運転士になるための学科を学び実技の教習を受け、ようやく国家試験を受ける。普通自動車運転免許のように、カリキュラムを終えて試験を受け合格すればよいというものではない。

 なにより、鉄道運転士は単に列車を運転するための鉄道員ではない。運転士は万が一にも事故を起こさないように努めているが、地震や火事、車内に暴漢が現れるといった不測の事態が起きることもある。そんな事態においても、運転士は乗客の安全を守らなければならない。将来的に技術が向上して自動運転が実現できても、乗客の安全を守ることができるのは人間だけなのだ。

 仮に省令が改正されて18歳から鉄道運転士の免許が取得できるようになっても、18歳の運転士が誕生することは可能性としては低く、若い運転士が多少、増えても人手不足を解消するまでには至らないことは大方予想がつく。そもそも、18歳から鉄道免許が取得できるように省令改正したところで、運転士になろうと考える18歳はどのぐらいいるのだろうか?

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