横田自身の著書『奇跡のバックホーム』は、ドラマ化もされた。一方で母の視点で描かれ、昨年11月に刊行された『栄光のバックホーム』は家族との絆が胸を打つ。姉の誕生日前日。食事中、プロ3年目の横田は姉に「プレゼント何がいい?」と聞いた。「時計」と即答する姉に対して「俺、プロ野球選手だよ」と語り、続けた。
〈ホームランでいいよね〉
実際、翌日の試合で横田はホームランを放つ。以来、まなみさんはプレゼントを聞かれるたびに決まって「ホームラン」と答えるようになる。横田の純粋でロマンチックな一面と、家族の絆を感じるシーンだ。『栄光のバックホーム』著者の中井由梨子さんは言う。
「誠実で、かわいらしい慎太郎さんのキャラクターに心を掴まれました」
引退した横田は闘病体験の講演を引き受けると、必ず原稿を暗記し、何度もリハーサルをした。ある講演の前、中井さんは楽屋を訪ねた。少し緊張していた横田に中井さんは声をかけた。
「会場の方々は慎太郎さんに会いにきているので慎太郎さんがお話しすることはすべてお客様は嬉しいと思いますよ」
すると横田は「あっ」と声を出して「ありがとうございます」と頭を下げた。実直な人柄を示すエピソードだろう。
母子との交流を続けるなかで中井さんが実感したのが、まなみさんの存在の大きさである。
「まなみさんは品があって、芯が強い。闘病を二人三脚で支えたからこそ、慎太郎さんはプロ野球選手として復帰できたし、悔いのない人生を送れたのだと感じます。真面目だけどユーモアもある慎太郎さんは『勘違いしてほしくないのですが、ぼくはマザコンではないですから』と繰り返していましたね」
2020年に病魔が再び襲った息子を思いやる母の姿も印象深い。脊椎への腫瘍の転移が見つかり、半年間の入院治療を余儀なくされた。コロナ禍で面会が制限されていたが、まなみさんは〈病院から一歩も出ません〉〈一人でいては、病に殺される前に心が死んでしまいます〉と医師らに頼み込み、病室で寝泊まりを許される。まなみさんは語る。
「絶対に泣かないと心に決めました。私が泣けば慎太郎も不安になってしまう。でも『大丈夫』『絶対によくなる』と声をかけると笑顔が自然に出るようになったんです」