「天国から連覇を応援」

 1度目の闘病は、野球選手として生きるためだった。だが再発後、生きる目的が変わる。同じ病気に苦しむ若者や子供に自分の体験を伝え、勇気づけるために生きようと決心したのだ。講演活動を本格化させた2022年3月、腫瘍が再々発する。横田は〈治療よりもやりたいことがある〉と入院せずに講演活動を続ける決断をする。

「私たち家族は『慎太郎の人生だからそれでいい』とホスピスに入る選択をしました。もちろん最期を迎える覚悟で」

 そう話すまなみさんたち家族を支えようと、阪神OBの川藤幸三ら親しい関係者や選手がホスピスに見舞いにきた。現役時代が蘇るのか、病床の横田はたびたび「虎風荘」にいると勘違いした。阪神の若手選手の寮である。

〈寝坊した〉〈練習! 遅刻する〉と起きようとするとまなみさんは優しくなだめた。〈練習がお休みだって、コーチから連絡来たの、覚えてないの〉。横田はほっとした表情で眠りに戻る。ホスピスでの3か月はまなみさんにとって「穏やかで、幸せな家族の時間だった」と振り返る。

 鹿児島の横田家を同期入団の選手たちが訪ねたのは、阪神が日本一を達成したあとのことだ。

「お母さん、ユニホームを返しにきました」

 岩崎、岩貞祐太、梅野隆太郎、現在は西武の陽川尚将が、横田の仏壇に手を合わせた。彼らが参加するキャンプの報道に触れるたび「慎太郎が元気だったら、キャンプ初日から全力疾走で泥だらけになっていただろうな」とまなみさんは思う。

「阪神の連覇がかかっていますからね。今年は慎太郎も天国で外出許可をもらって甲子園で応援しているはずです」

“何事も諦めない”─―横田の生き方は多くの人を勇気づけた。連覇を目指す阪神ナインの心にも、必死に生きた横田の姿が刻まれているに違いない。

※週刊ポスト2024年2月23日号

『栄光のバックホーム』/中井由梨・著

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