育った時代や環境は違っても、むしろ年齢を重ねてこそ共鳴できる青春小説というものが時としてある。坪田侑也氏(21)の約5年ぶりとなる新作長編『八秒で跳べ』もその1つだ。
主人公は明鹿高校で2年生ながらレギュラーを務める〈宮下景〉。景は春高バレー予選前日に練習試合で右足首靱帯を部分断裂し、先輩達が受験を犠牲にしてまで残ったチームは全国屈指の2年生セッター〈和泉〉を擁する〈稲村東〉に惨敗。本書では新チームにも未だ合流できずにいる彼の何とも宙ぶらりんな日々を描く。
が、無為で居場所がないからこそ人は普段考えないことを考えもするらしく、小柄ながら絶対的エースの〈尾久遊晴〉や裏エースの〈伏見梅太郎〉。手足の長い〈マリオ〉や中学でも控えだった〈北村〉、そして漫画家志望の〈真島綾〉と関わることで、部活に対してもどこか冷めていた景の中で何かが変わり始めるのだ。
2018年に夏休みの自由課題として書いた小説『探偵はぼっちじゃない』で第21回ボイルドエッグズ新人賞を史上最年少の15歳で受賞。その後慶大医学部に進んだ坪田氏は、高校でいったん離れたバレーを再び大学で始めた現役部員でもある。
「医学部の体育会なので、今はゆるめにやっています。僕自身、高1の終わり頃、最初の本が出る直前に景と全く同じケガをして、一度は部活を辞めるんですけど、バレーボールはずっと書いてみたい題材でした。
景が痛めた足首を部室に戻って氷水で冷やすシーンは僕自身の体験ですし、相手スパイカーの足を踏んだ自分の足があり得ない方向に曲がるのを見た時も、『いつかこれ、小説に書けるかも』って、瞬間的に思ったんですよね。他にもレギュラーを外れて、将来プロになる才能もないのに自分はなぜ続けているんだろうとか、バレーをやる中で感じた劣等感や葛藤が、今作の核にもなりました」
前作では中学生と教師の2つの視点を並行させつつ、友人がトリック、主人公が執筆を担った推理小説まで盛り込んだのに対し、本作は構造もシンプルだ。
「前作もミステリーという自覚はないんです。ただ何らかの謎で読者を引っ張る作品は僕も好きで、今回も挑んではみたんです、謎解きとバレーの融合に。でもいざ書いてみたら何か違うし、もっとバレーそのものや、自分が新作を書けずにいた日々の感覚をストレートに書いた方が面白くなりそうだと思い直した。僕が目標としているのは文章がよくて、広い意味で面白い、いい小説なので」