獲物の行動を示す「4次元パズル」
だから、獲物の行動を読んで先回りしたり、相手の思いもよらない方向から接近したりするのは、狩猟に欠かせない基本のキだ。
原理は極めてシンプル。正しい場所に、正しい時間にいられれば遭遇できる。ただそれだけのことだ。X・Y・Z、3次元の座標。プラス、時間軸の4次元。分解してみれば、理論的に要素は4つしかない。ところが、ここに天候や植物の生育状況に、鹿自身の気分など、様々な因子が複雑且つ流動的に絡み合うから厄介だ。
正しい場所と時間に到達するため、まずは、正しかった場所と、正しかった時間から推理を組み立ててみる。
正しかった場所。これは簡単だ。足跡、フン、食痕(しょくこん)。獲物がピンポイントでそこにいたという確固たる証拠だ。ならば、何の植物を食べているのか。それはどこに生えているのか。結論として今、足跡はどこに向かおうとしているのかを突き詰めてゆく。
正しかった時間。これは相当に難しい。鹿はどのくらい前にその場所にいたのだろう。ついさっきなのか、半日前なのか。足跡であれば、風や日光によってどれだけ崩されているか、また、上に降り積もった雪や落ち葉の量を見る。食痕であれば、断面の乾燥具合、フンであれば硬化の程度などを観察する。
冬のエゾシカのフンは黒い長円形の粒状で、一度にいくつもがパラパラと落とされる。一見、同じように雪の上に転がっていたとしても、つついてみてコロコロと転がれば新しい。逆に、雪に張り付いて動かなければ、凍るだけの時間経過を示唆する。
ただし、気象条件は一定ではない。新しい足跡があっという間に強風で消えてしまうこともあれば、天候が安定している場合は1週間前のものがくっきりと残っていることもある。フンも、凍ったり溶けたりを繰り返す。
この4次元パズルをひたすら解いてゆく行為が、狩猟だとも言える。