僕は若い頃、先輩騎手に話を聞きまくりました。中にはとっつきにくい先輩も多かったし、僕自身あまり人付き合いが得意な方ではなかったけれど、好きでジョッキーになったのだし、なにより勝つことが仕事です。
自分が騎乗していないレースもよく見て、どうしてああいう乗り方をしたのだろうと思った時などは直接聞きに行きました。自分で見て想像するのと、聞いて判断するのではどれくらい違うかというのを知るだけでも勉強になりました。今のジョッキーは昔ほど癖が強くないから、若い子に聞かれれば親切に教えてくれるんじゃないかな。
10代後半から20代前半というのは体がまだ成長期だから、食べれば太ってしまう。僕もその時代は体重を制限するのがしんどかったので、できるだけ早く勝ち星を積み重ねて印を取ってしまいたいと思ったものです。勝つことで騎乗依頼も増えるし、何より「見習い」ではなくなるわけですからね。ちなみに僕が通算101勝をあげたのはデビュー3年目の9月でした。
ジョッキーだけではなく、関東で3厩舎、関西で5厩舎が新たに開業しました。関東では千葉直人調教師が僕と一緒に試験勉強をした仲。ジョッキーとしては早く引退したけれど、調教助手として10年以上キャリアを積み上げており、しかもまだ37歳。みな、これから競馬界を共に盛り上げてくれる仲間たちです。
僕はこの19日でもう55歳、定年まであと15年しかありません。焦ってもしょうがないけれど、残されたチャンスはそれほど多くないと自分に言い聞かせています。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。
※週刊ポスト2024年3月22日号