在宅医として長く勤務した久坂部さんも言う。
「私は多くの患者を在宅で看取りましたが、みな穏やかな最期でした。悲惨な延命治療を受けたくなければ80才を超えたあたりから病院に行かないのが賢明な判断です。地域の医師会や役所などに問い合わせれば、在宅訪問診療をする医師を紹介してもらえます」
延命を考えることは「明日死ぬかもしれない」と想像すること
多死社会のなかで、悔いなく人生を終えるにはどうすればいいのか。名医たちは「日頃から“死の準備”をしておくことに尽きる」と口を揃える。
「毎日、自分や家族の死を頭の片隅に置いて、後悔のないようベストを尽くして生きることが何より大切です。そうした準備がない人ほど現実に死が迫ると動揺し、“死ぬのは嫌だ”という感情に振り回されて、冷静に人生の最期と向き合えません」(久坂部さん)
湘南東部総合病院外科医で作家の中山祐次郎さんも「自分がいつか死ぬことを本気で想像してください」と語る。
「まだ元気で死を想像できなければ、今年いっぱいで目が見えなくなるとしたら何が見たいか、口からご飯が食べられなくなったら何が食べたいか、などと想像を重ねていくと、人生の終着点にどう向き合うべきか見えてきます。そうすれば日々の風景が変わり、後悔しない死を迎える備えができるはずです」
自分の死だけでなく、家族や大切な人との別れも想像すれば、最期を迎えるにあたってどう振る舞うべきか見えてくる。日々の暮らしそのものが命をつなぎ延ばしていく。毎日をどう生きるかの延長線上にある別れの日に思いを巡らせて、やがて来る旅立ちの支度を整えたい。
(第3回へ続く。第1回から読む)
※女性セブン2024年3月28日号