国内

延命治療を受ける患者と家族に求められる「理解と覚悟」 原則として「一度始めた延命治療はやめられない」

(写真/PIXTA)

延命治療には家族の「理解と覚悟」が必要(写真/PIXTA)

 かつては、病気になれば医師による診断のもと治療が施され、手の尽くしようがなくなったときが人生の幕を閉じる瞬間だった。しかし、医療が進歩した結果、苦痛を伴う延命治療を受け続ける患者もいる。そもそも「延命治療」の定義が曖昧であり、患者本人が望まない治療が行われる可能性もある。だからこそ医療界では、人生の最終段階に備え、本人が望む医療やケアを家族や医療者などと話し合うACP(アドバンス・ケア・プランニング=人生会議)を推奨している。患者本人が何を望むのかをしっかり伝えることが重要なのだ。しかし、それでも望まぬ形になる可能性はある──。【全4回の第2回。第1回から読む

 いくら意思を伝えていても、何をもって延命治療とするかが曖昧だからこそ、思わぬ形で望まない延命治療を受けてしまうこともある。医師で作家の久坂部羊さんは、「初めから望ましい治療、望ましくない治療と分けることは誰にもできない」と話す。

 在宅医療専門医で向日葵クリニック院長の中村明澄さんは以下のように説明する。

「多くの人は適切な延命治療なら受けたいと思うのでしょうが、適切になるか不適切になるかは、実際に治療を始めてみないとわからない面があります。とりわけ高齢者の場合は、回復の見込みがあって始めた治療でも急変し、苦痛を伴う延命治療になってしまう危険性は高い。

 そこでたとえ“これ以上、手の施しようがない”と医師が判断しても、そう伝えると『ベストを尽くしていない』と怒る家族もいます。そもそもいったんスタートした胃ろうを抜いたり人工呼吸器を外したりすると、医師は殺人罪に問われかねません。だから家族が『もうやめて』と頼んでも、原則として一度始めた延命治療を途中でやめることはできません」

 当人の苦しむ姿を見た家族が治療の中止を求めても、日本には尊厳死を認める法律がなく、当人の死に直結する処置は法的にグレーもしくは“クロ”の部分が多いため、医師は安易に治療をやめられない。それゆえ治療を受ける患者と家族には「理解と覚悟」が求められる。

「いまは延命治療という言葉だけが独り歩きして、よくわからないまま『延命は嫌だ』と拒否したり、逆に『お母さんはひ孫に会いたいはず』と安易に延命を求める事例が目立ちます。

 また、胃ろうと経鼻経管栄養は胃に穴を開けるかどうかの違いはありますが、栄養を胃に直接入れるという治療の意味合いは同じ。なのに、それを知らず『胃ろうは延命治療なので避けたい。経鼻経管にして』というご家族もいるなど、知識が乏しいかたも多い。理解や覚悟のないまま治療を始めることは、予期せぬ結果を生むリスクになることがあります」

 延命治療を受けるか否かを考える対極で、年を重ねポジティブな回復が見込めない場合や、“穏やかな死”のために在宅医療や、がん治療を中心とした緩和ケアを選択する人も増えている。医師で作家の鎌田實さんはこう話す。

「いまは緩和ケアが進歩し、モルヒネなどを使って末期がんの痛みを大幅に軽減できるようになりました。転移が進んだ患者のなかには無理な治療を続けるよりも、緩和ケアに切り替えることを望む人もたくさんいます。治療をやめて死期が早まっても構わないから、苦痛を和らげて残りの人生を生き切りたいという人たちです。延命とは対極にある考え方ですが、本人が希望するなら周囲はその思いを尊重してほしい」

 人生の最終盤、在宅で医療や介護を受けている場合でも、容体が急変して救急車を呼ぶと救命措置として、望まない延命治療が施される可能性が高い。それだけにいざというときに、救急車を呼ぶかどうかも話し合っておきたい。永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長で緩和ケア医の廣橋猛さんは、こう語る。

「延命措置を望んでいない患者が苦しみのあまり救急車を呼び、延命治療につながるのはよくあるケースです。やはり事前に、いざというときにどこでどう治療を受けたいかを話し合い、延命治療を避けて自宅で看取りたいなら訪問診療医を確保するなど、急変時に救急車を呼ばなくてすむ態勢を整えておくことが求められます」

関連キーワード

関連記事

トピックス

2024年末に第一子妊娠を発表した真美子さんと大谷
《大谷翔平の遠征中に…》目撃された真美子さん「ゆったり服」「愛犬とポルシェでお出かけ」近況 有力視される産院の「超豪華サービス」
NEWSポストセブン
新政治団体「12平和党」設立。2月12日、記者会見するデヴィ夫人ら(時事通信フォト)
《デヴィ夫人が禁止を訴える犬食》保護団体代表がかつて遭遇した驚くべき体験 譲渡会に現れ犬を2頭欲しいと言った男に激怒「幸せになるんだよと送り出したのに冗談じゃない」
NEWSポストセブン
警視庁が押収した車両=9日、東京都江東区(時事通信フォト)
《”アルヴェル”が人気》盗難車のナンバープレート付け替えで整備会社の社長逮捕 違法な「ニコイチ」高級改造車を買い求める人たちの事情
NEWSポストセブン
地元の知人にもたびたび“金銭面の余裕ぶり”をみせていたという中居正広(52)
「もう人目につく仕事は無理じゃないか」中居正広氏の実兄が明かした「性暴力認定」後の生き方「これもある意味、タイミングだったんじゃないかな」
NEWSポストセブン
『傷だらけの天使』出演当時を振り返る水谷豊
【放送から50年】水谷豊が語る『傷だらけの天使』 リーゼントにこだわった理由と独特の口調「アニキ~」の原点
週刊ポスト
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
《英国史上最悪のレイプ犯の衝撃》中国人留学生容疑者の素顔と卑劣な犯行手口「アプリで自室に呼び危険な薬を酒に混ぜ…」「“性犯罪 の記念品”を所持」 
NEWSポストセブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《離婚後も“石橋姓”名乗る鈴木保奈美の沈黙》セクハラ騒動の石橋貴明と“スープも冷めない距離”で生活する元夫婦の関係「何とかなるさっていう人でいたい」
NEWSポストセブン
原監督も心配する中居正広(写真は2021年)
「落ち着くことはないでしょ」中居正広氏の実兄が現在の心境を吐露「全く連絡取っていない」「そっとしておくのも優しさ」
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
〈山口組分裂抗争終結〉「体調が悪かろうが這ってでも来い」直参組長への“異例の招集状” 司忍組長を悩ます「七代目体制」
NEWSポストセブン
休養を発表した中居正広
【独自】「ありえないよ…」中居正広氏の実兄が激白した“性暴力認定”への思い「母親が電話しても連絡が返ってこない」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(時事通信フォト)
「うなぎパイ渡せた!」悠仁さまに筑波大の学生らが“地元銘菓を渡すブーム”…実際に手渡された食品はどうなる
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン