去年5月に公開された『ハマのドン』というドキュメンタリー映画も挙げておきたい。これは横浜市のカジノ誘致反対に立ち上がった藤木幸夫(横浜港振興協会会長)を追った作品です。政界に多大な影響を持つ藤木氏ですが、彼の父・藤木幸太郎は田岡一雄と親交がありました。

『ハマのドン』の中で、「ヤクザなんかやめろよ」と諭す幸太郎に、田岡が「俺のために旅に出ている(懲役に行っている)のが百何人もいます」と、ヤクザをやめられない境遇を語るくだりが藤木氏の述懐として描かれる。

 日本の首領と言われた男の任侠人としての矜持がこもった言葉のように感じられます。山口組の港湾事業についても知ることができる1本です。

【プロフィール】
伊藤彰彦(いとう・あきひこ)/1960年、愛知県生まれ。映画史家。慶應義塾大学文学部卒。主に映画人の修羅と栄光を描いてきた。著書に『映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件』(講談社)、『仁義なきヤクザ映画史』(文藝春秋)など。

※週刊ポスト2024年3月29日号

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