悪党だとばかり思われている存在が、別の悪党に搾取されるという裏側が見えてくることがある。強盗の犯人グループが逮捕されたら、脅されて実行犯となってしまった闇バイトばかりだった例などは、そのひとつだろう。弱い女性を搾取するばかりだと思われているホストにも似たような構図があるという。ホストの大半が、ブラック労働から逃げるために売掛金システムに手を染めていた実態について、ライターの宮添優氏がレポートする。
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繁華街の路上で身体を売る「立ちんぼ」と呼ばれる若い女性たちの存在がSNSで拡散され、その理由が「ホスト通い」だったことが社会問題として取り上げられるようになって以降、ホストたちが窮地に追い込まれている。ホストの世界では当たり前になっていた独特なツケ払いである「売掛金」制度を廃止したり、各種法律を厳守しようとする姿勢を見せるなど、健全性をアピールしてなんとか生き残ろうとホスト業界も必死だ。だが、若い女性を借金漬けにして、風俗店で働かせたり、アダルトビデオへの出演を促す「搾取システム」の存在も一部で報じられており、「ホスト=悪」のイメージは、もはや払拭できないほどに定着しつつある。
「このタイミングで、元ホストの言うことなんて誰も聞いてくれないかもしれない。でも、多くのホストが元々は被害者だった、ということだけは伝えたいんです」
ホストに凄まじい逆風が吹く中で「ホストも被害者」と主張するのは、東京・歌舞伎町の大手グループ系ホストクラブに3年間在籍した経験のある天海司さん(仮名・30代)。ホストによる悪行がこれでもかというくらい報じられ、彼らの牙城・歌舞伎町からは、これまで見過ごされてきた大きさ違反などの条例違反を理由に警察から改善を求められ、デカデカと掲げられていたホストクラブの看板が外され始めさえしている。そのような状況下で、天海さんの主張は単なる自己保身に聞こえて信用しづらい。だが、それでも「ホストだって被害者」と言い切るのだ。
「今問題になっている売掛ですが、あれはホストクラブに対する女の子たちの借金ではありません。ホストが女の子の代わりに店へ借金をして、のちにホストが女の子から金を返してもらうというシステムで、実質的にはホストが店に負う債務です。もし売掛金が未回収になってもホストだけが損をして店は困らない。だから、金を払わずに飛び(逃げ)そうな不安定な子なんか接客したくない。でも接客しないと店から怒られるし、給与も発生しない。こういう仕組みは、女性が男性客を接客するクラブやキャバクラ、スナックではあり得ない。結局、ホストは店や上司から言われるがままに店へ借金をして、客に飲ませ自ら客から取り立て続けないといけないんです」(天海さん)
天海さんの説明によると、ホストクラブの「売掛金」は、どんな客がやってきても店側が損をしないように、ホストを借金漬けにし、業界から抜け出せなくさせる仕組みだというのだ。