ホストを辞めるために頑張った
天海さんは現在、都内で飲食店を営んでいるが、店で働く若いスタッフのうち数人は元ホスト。その全員が、売掛金を回収できなかったことがある。そのとき彼らは、在籍していた店の経営陣や上司から追い込みをかけられたり、支払わずに逃げた女性客の実家へ金を回収しに行くよう指示されたり、また女性客を風俗店へ斡旋するよう命令された経験をしているという。つい半年前に、天海さんの店で働くようになった勇樹さん(仮名・20代)が、辛かった思い出を筆者に語る。
「目的もなく上京し、歌舞伎町を歩いていたら”ホストにならないか”とホストにスカウトされたのがキッカケですね。漫画などの影響で、ホストといえば都会的でかっこいいイメージがあったし、寮もあるし、見習いでも給与が出るというんで軽い気持ちで始めちゃったんです。でも、いざ仕事が始まってみたら、店のオープン準備から後片付けまで全てをこなし、先輩ホストのお客さんを盛り上げるために、時には全裸で踊りながらお酌して……そこまでは想像していましたが、さらに理不尽に殴られたり蹴られたり、トイレの水で作った水割りを、先輩ホストの客に飲まされたりとさんざんでした。でも、住む場所は寮だから逃げられないし、わずかでも給与をもらわないと生きていけない。そういう極限にまで追い込まれて、結局自分が助かるには、女性客から金を引っ張るしかない、と考えるようになったんだと思います」(勇樹さん)
もちろん、この時点でホストに嫌気が差し、無言で去る見習いホストの方が多かった。しかし天海さんは、上司や店から脅されることで正常な判断ができず、どうしても逃げられなかったのだと振り返る。
「はっきり言ってバックれ(逃げ)たかったんですが、履歴書に実家の住所も書いていたため、実家まで行って賠償金を請求すると凄まれたこともあり逃げられなかった。いま流行りの闇バイトと同じように、ほとんど脅迫されているような状態で、女性から金を引っ張るしかないと追い込まれているホストは、自分以外にもかなりいると思います」(勇樹さん)
勇樹さんはその後も我慢を重ね、月の売り上げが店で3位以内に入るなど、ホストとしてある程度の実績を残したが、それも全て「円満に辞めるため」だったという。
「ホストとして自分の意見を通すには、売れてないといけない。だから、後腐れなく安心して辞めるために頑張った、というのが本音です。僕が在籍していた間だけでもホストはどんどん悪質になっていきましたが、結局、悪質なホストが増えるのは、それだけ店や上司から、客に金を使わせろ、借金を背負わせろと圧力をかけられているからに他ならないんです」(勇樹さん)
もちろん、勇樹さんの見解が「都合の良い自己弁護」と捉えられてもおかしくないことは、勇樹さん自身も認めるところだ。それでも「ホストも被害者」と主張するのは、もうこれ以上、ホストになって「悪いことをせざるを得なくなる」若者、そして女性被害者を増やしたくないという一心からだと訴える。