もともとマニアというぐらい人生相談が好き
最初のエッセイ集『なんといふ空』の大ファンだという若い編集者に、雑誌や新聞に発表したエッセイやコラムをまとめたファイルを預けたところ、1年後に本の目次案が送られてきた。
「ノンフィクションと違うのは、エッセイは依頼をいただいて書いていることです。締切やテーマに沿ってバラバラに、本になることも想定せずに書いているので、読み返して『こんなこと書いてたんだ』と思ったりしました」
最相さんと言えば読売新聞でもう15年近く「人生案内」の回答者をつとめている。エッセイ集の版元は『辛口サイショーの人生案内』『同DX』の版元でもあり、今回の本にも「人生相談回答者」の章がある。
若いころから親の介護をしてきたことが人生相談の回答に役立ったところもあるのだろうか。
「もちろんあると思います。逆に自分がしんどいときに同じようにしんどい相談がきて、『そんなこと私に聞かないでよ』みたいな感じになったこともあります。
ただ、あの欄は、ふつうの人生相談やカウンセリングと違って、数百万の読者の読み物としても成立させないといけないので、必ずしも自分の経験が直接、結びつくというものでもないんですよ。私はもともとマニアというぐらい人生相談を読むのが好きで、中島らもさんの『明るい悩み相談室』を愛読、ニッポン放送の『テレフォン人生相談』もよく聴いていました。こういう質問が来たらこう答えるっていう先人の知恵みたいなものが、結構、自分の中に入っていた気がします」
デビューして30年、母の介護が30年。本の編集者も、ブックデザインを担当した脇田あすかさんも30歳。還暦を迎えた最相さんのちょうど半分の年齢だ。
「『デビュー30周年』なんてふだんなら打ち出したくないんですけど、こんなに数字がそろって何か意味があるのかもしれないと。書店回りをしていたら佐藤愛子先生と樋口恵子先生の本の間にこの本が置かれていて、『あなた、30年なんてまだまだよ』って言われてる気がしましたね(笑い)」
本の刊行記念イベントで作家生活について聞かれ、「書く30年というより聞く30年だった」と答えた。
「私がこういう仕事をしているからみなさん話してくださるんです。『セラピスト』も『証し』の取材もそうなんですけど、私がお尋ねするのはその方の人生の危機的場面だったりするわけです。ふつうなら『なぜあなたにそんなことを話さなくてはいけないのか』という話です。そもそも自分は相手にとって迷惑な人間だ、ということを自覚しながら現場に行く、そのくりかえしでしたね。取材のあとで親しく思ってくださる方もいらして、それは非常にありがたいことですが、相手の優しさや親切心に甘えずにいようということはつねに忘れずにいます」
今後の仕事については「自分が飽きてしまいそうで口にしないことにしています」。子どもにノンフィクションを書いてもらう試み(北九州市の「子どもノンフィクション文学賞」、明石おさかな普及協議会の「こども海の文学賞」)で近々、子どもたちに会うのが楽しみですと話した。
【プロフィール】
最相葉月(さいしょう・はづき)/1963年生まれ。関西学院大学法学部卒業。著書に小学館ノンフィクション大賞を受賞した『絶対音感』や大佛次郎賞、講談社ノンフィクション賞を受賞した『星新一 一〇〇一話をつくった人』、『青いバラ』『セラピスト』『証し 日本のキリスト者』『中井久夫 人と仕事』、エッセイ集『なんといふ空』など多数。読売新聞「人生案内」の回答者としても人気で、『辛口サイショーの人生案内』『辛口サイショーの人生案内DX』の本もある。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2024年4月4日号