小林製薬の「紅麹」成分入りサプリメントを摂取した人に健康被害が確認された問題は、4月に入っても拡大し続けている。少なくとも31都府県で健康被害相談が寄せられており、157人が入院。関連が疑われる死者は5人おり(4月2日現在)、さらなる増加も危惧される。
亡くなった5人には70〜90代の男女が含まれ、そのうち1人は茨城県在住。いずれも同社の「紅麹コレステヘルプ」を摂取しており、腎臓の不調を訴えていた。渋谷内科・スキンケアクリニック院長で日本腎臓学会専門医・医学博士の渡邉智成医師が解説する。
「腎臓は、体内に必要以上にたまってしまった水分や、血液中の老廃物を取り除き、それを尿として排出する働きをしています。その機能が低下して腎不全といった状態に陥ると、命にかかわる合併症につながります」
その1つが「肺水腫」だ。
「腎機能の低下による症状の1つに、尿量の減少があります。体外に水分が排出されず、体重が増加し、全身に浮腫の症状が出ます。そもそも尿が作られないので、尿意や残尿感もなく、1日に1回もトイレに行かなかったり、行ってもほとんど尿が出ないことが続くこともあります。
体内の水分量が過剰になると、肺の周辺に水分がたまる状態『肺水腫』を引き起こします。肺が圧迫されて潰れ、息を吸っても肺が膨らまず、体内に酸素を取り入れられず、最終的には呼吸不全に陥ります」(渡邉医師・以下同)
ウーロン茶のような尿が出る
今回の問題では、持病のない健康な人が、サプリの摂取で体調不良に襲われたケースがある。全身に倦怠感のような症状が現れ、朝、起き上がることすらままならないほどのつらさだったという。
腎臓には、糸球体という細い血管が束になったような構造がある。そこに流れてきた血液から、老廃物などを絞り出し、最終的には尿として体外に排出する。
「ところが、血液中に『腎毒性物質』が含まれていると、腎臓を通る過程で糸球体や、その先にある尿細管などが障害を起こす可能性があります。今回のケースでは、サプリメントになんらかの腎毒性物質が含まれていた可能性が指摘されています」
小林製薬の発表によるとその腎毒性物質は「プベルル酸」である可能性があるという。特に気をつけなければならないのが高齢者だ。
「高齢のかたは、若いかたに比べ腎臓の機能が加齢によって衰えています。そのため腎毒性物質によって受けるダメージも大きい。仮に同じ量の腎毒性物質を摂取した場合でも、高齢者の方が腎不全状態に陥りやすい。しかも、心臓の機能も若い人に比べて落ちているので、心不全に陥る危険性もあります」
腎機能の低下は、ほかの疾病も呼び込んでしまう。
「血液中の老廃物や毒素が排出されず、体内に蓄積することで生じるさまざまな全身症状のことを尿毒症といいます。その中でも注意しなければならないのは、高カリウム血症です。ミネラル成分の1つであるカリウムが、血中からろ過されず過剰に体内にとどまることで起きます」
高カリウム血症は無症状の場合も多いという。
「吐き気や筋力の低下、手や口のしびれや脱力などの症状が現れて初めて気づくケースもあります。進行速度には個人差がありますが、自覚症状が出るのはかなり進んだ段階。最終的には不整脈を引き起こし、突然死の原因になります」
では、腎臓の機能低下に早めに気づく手立てはあるのか。
「尿が出ない。または尿は出るものの泡立ちがいつまでも消えない。これは腎機能低下によって、蛋白が尿に含まれていることが原因。そのほか、尿潜血があれば、ウーロン茶のようなかなり濃い色の尿が出る。腎機能の“危険信号”は、尿の変化から気づけることが少なくありません」