両親だけでなく、実家に乗りつけたBMWの他にアルファードも所有する派手好きな兄や、逆に言葉少なで芯の強い姉。〈結婚って何なんでしょうね〉と、〈皆婚社会〉の特殊性について突然語り始める賢人や、元地下アイドルにしては地味で小声な珠利など、家族は家族にとってもわからないことだらけだ。
「例えば誰かが結婚したら、本当におめでとうなのか?とか、愛情や友情もそう。世の中で良きものとされているものほど疑いたくなる性分なんでしょうね。父親は〈貧乏神〉で兄は下品と見下す周にしても、自分だけが真っ当で家族の支えだと思っているけれど、それって自分が一番賢いと誰もが思って炎上するのと、構造は同じなんですよね。
わりと従来の家族物って、最悪の毒親から逃げる話か、ほっこりイイ話かの二極化だなって思うんですけど、むしろこの喜佐家のように不貞はあっても虐待はなく、自分だけは冷静だと全員が思いこむ中庸さの中にこそ、本質は見えてくる気がする。最近は何にでも結論を付けたがる空気が色濃いけれど、言い切れない場合は保留という手もあるよねっていう、それが僕の小説に通底するテーマかもしれません」
オジサンを悪者にすれば丸く収まる
本書では、何とか隣家の車で木箱を埼玉まで運び、アルファードで北を目指す周、兄、母、賢人の4人と、家に残って父の行方を探すあすなと珠利の動向が交互に進行。ご神体さえ戻ればいいと神社側が示した期限まで残り12時間を切る中、引越業者が下見に来た時はなかった木箱を誰が倉庫に運びこみ、高速を降りても執拗に追ってくる車の主は誰なのかなど、読めば読むほど増えていく謎や伏線を、読者はひとつとして読み逃すことができないのである。
「増改築のし過ぎで全貌が掴めない家とか、都留から十和田までは実は750キロ程度で、一通りミッションをクリアしても残り○キロと表示があったりするのも、そのへんは敢えてやっています。僕はポケモンで育った世代で、クリアしたと思ったらマップが倍になって、うわ、まだ遊べるんだ! と思った時の感動が、エンタメ観の根底にあるのかもしれません(笑)」